一つの本を丁寧に作る基本に立ち返る

 それにしても、そもそもこうした動きを導き出した要因はどこにあるのか?

 端的に言えば、それは新刊点数の多さにある。そして、これを引き起こしているのは、出版業界独特の委託販売制にあり、この結果が、返品率の上昇として現れている。

 出版業界の委託販売制とは、出版社が取次を介して書店に商品(本)を卸す際、そこで一時的に代金を受け取れるシステムのことだ(その際、売上も計上できる)。しかし、書店が商品を返品すれば、出版社と取次は書店に代金をそのまま返さなければならない。

 こうした制度によって、経営が悪化した零細出版社では、とにかく商品を作って取次に流して一時的に資金を得るような自転車操業に陥るパターンが多く見られる。

 出版業界が最盛期を迎えていた1996年には、書籍の新刊点数は約6万3000点だったが、昨年は約7万6000点にまで増えた。しかし、売上は96年の約1兆900億円に対し、8878億円と2000億円ほど減少している。新刊1点当たりの売上は、激減しているのだ。

●書籍の新刊点数の推移

新刊点数は基本的に伸びている。ピークは06年の約7万8000点。その後は序々に減る傾向にある(画像クリックで拡大)

 マンガも同様だ。マンガ単行本(コミックス)の売上は、出版不況の中でも堅調に推移しているほうだが、新刊点数は激増している。売上が2535億円となった96年の新刊点数は7046点だったが、売上が2372億円だった昨年は1万2048点と、約5000点も増えた。単純に考えれば、1冊当たりの売上は96年の半分近くにまで落ちていると考えられる。逆に言えば、出版点数(商品)を増やすことで、なんとか売上を維持しているのだ。

 こうした中、小学館や講談社、筑摩書房など大手・中堅の出版社10社が、「責任販売制」に乗り出した。売上における書店の取り分を現行よりも上げる代わりに、返品時の代金を低く抑える。出版社のリスクを低減し、書店側のリスクとリターンを高める策だ。この方式がどれほど上手くいくかは分からないが、これも一つの方法だろう。

 しかし、いくらこうしたことをやっても、商品が魅力的でなければ、なんら実りはない。新刊点数増加の原因の一つは「数打てば当たる」という出版社の姿勢と、委託販売制が結び付き、粗製濫造を招いたことにある。

 いま出版社に求められることは、読者(消費者)にとって魅力的な商品を丁寧に作り、そしてしっかりと宣伝や営業をしていくことではないか。10冊で計5万部を売るよりも、5万部売れる本を1冊作るほうが、コストもかからず、利益率も高いのは自明のことだ。

 映画業界では、大手3社の一角である松竹が、昨年から配給作品数を06年の半分にまで減らした。これは人材と予算を宣伝と営業に回し、一つひとつを丁寧に売っていくという戦略だ。そしてこれにより、『おくりびと』や『ヤッターマン』などヒットを連発するようになった。映画と出版では商品点数が格段に違うが、これは一つのヒントにはなるだろう。

 出版社も、粗製濫造を止め、丁寧に本を作り、しっかりと宣伝・営業をする——こうした基本に立ち戻ることが必要ではないだろうか。

プロフィール

松谷 創一郎(まつたに そういちろう)

 1974年、広島市生まれ。元シンクタンク研究員。専門は、映画、マンガ、社会現象など。国内外企業のマーケティングリサーチも手がける。共著に『文化社会学の視座』や『どこか〈問題化〉される若者たち』、『最新コンテンツビジネスのすべてがわかる本』など。