2009年5月20日、WHO(世界保健機関)で新型インフルエンザ対策に取り組む押谷 仁(おしたに・ひとし)東北大学教授が、一時帰国の機会に緊急報告会*を開催。新型インフルエンザの現状と、これからの課題について語った。

 今回の新型インフルエンザについて、まだ分かっていないことも多いが、見えてきたものも多い。今分かっていることは何か、これからどうするべきなのか。押谷教授の講演から紹介しよう。

世界各国の新型インフルエンザ感染者数を示す地図。WHOの新型インフルエンザ情報ページから(画像クリックで拡大)

 インフルエンザの被害は、「どのくらい感染が広がりやすいか」と「どのくらい重い症状がでるか」という2つのファクターを掛け合わせて決まる。今回の新型インフルエンザは弱毒性だといわれているが、感染力は高い。また割合は低くても一定の割合で重症化する例があり、しかも重症化すると治療が非常に困難だ。

 いたずらに恐怖心をあおるのはよくないが、「軽症だからかかっても大丈夫」とみんなが油断すれば、リスクが高い人を中心に、相当数の死者が出る可能性がある。若い世代に重症化する人が多いことも、社会的にはインパクトが大きいだろう。

押谷仁教授の講演資料を基に編集部で作成。以下同

感染力はかなり高い

 今回の新型インフルエンザは通常のインフルエンザよりもやや潜伏期間が長く、1日から7日といわれている。また軽症で熱も出ないという人が、かなり多い。症状が出なくて入国時のチェックなどをすり抜けてしまうことが、感染を拡大させている。

 感染力を判断するのに、「Reproductive Number(RO)」という指標がある。これは1人の感染者が他の何人に感染させるのかという数値だ。もしROが2、つまり1人が2人に感染させるとすると、10回の感染サイクルで1000人以上(2の10乗)が感染する。これがもし1.5くらいなら、1.5の10乗で57人くらいだ。

 ニューヨークや関西の高校で感染が拡大した例を見ると、今回のインフルエンザはかなり速い速度で感染が広がっているようだ。10日ほど前の「サイエンス」誌にメキシコでの初期データとしてROが1.4-1.6くらいと報告されているが、これよりも高い可能性もある。これは通常のインフルエンザよりもやや高い。

 また、1人の感染者が家庭内でどのくらいの家族に感染させるかという指標では、米国でだいたい22~30%になっている。季節性のインフルエンザはだいたい5~15%だと言われているので、これもかなり高い数値だ。

*「新型インフルエンザに関する緊急報告」-東北大学押谷仁教授による現状と課題-笹川平和財団主催(2009年5月20日)。東北大学大学院医学系研究科 微生物分野教授 押谷仁氏