商標といえば、商品パッケージなどに付いている企業やブランドのロゴマークを思い浮かべる人が多いだろう。そんななか、特許庁が動きや音などを使った新しいタイプの商標を検討している。同庁は2008年7月に「新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ」を設置。09年2月にはその報告書に対する意見募集を開始した。欧米やオーストラリアでは音や動き、香りなどの商標が認められており、韓国や台湾、中国といったアジア諸国でも新しいタイプの商標が一部認められたり、検討する動きが活発化したりしている。

 しかし、“音を使った商標”とは、いったい何を指すのだろうか。

 「IT's a sony」(ソニー)「ハ~イ!」(へーベルハウス)「ポーン ピポンパンポン」(インテル)「サッサッ(永谷園)」…。CMの最初や最後でよく耳にするこれらの音は「サウンドロゴ」と呼ばれ、その名の通り、企業やブランドを表す“音声版ロゴ”だ。企業名やブランド名に節を付けたものもそれにあたる。

 普段は全く意識しないサウンドロゴだが、聞くとすぐにその企業が思い浮かぶ。この恐るべき力を持つサウンドロゴ、果たしていつごろから登場したのだろうか。

 確かなことはわからないが、「1960年代後半に私が初めて手がけた森永製菓の『ピポピポ』が最初なのでは」というのは、CM音楽プロデューサーの大森昭男氏。“くしゃみ三回ルル三錠”などで知られる日本のコマーシャルソングの重鎮・三木鶏郎氏の門下生で、今日にいたるまで膨大な数のCM音楽やサウンドロゴに携わってきた人物だ。

 「森永のCMでエンゼルマークに付ける音を2秒以内で、という依頼だった。20~30人のオーケストラや合唱団などを使ってたくさん音を作ったが、どうしてもエンゼルマークに合わない。そこで、たまたまオーケストラのフルート奏者がオカリナで遊んでいたのを聴いて『それだ!』ということになり、できたのが“ピポピポ”。そのときはまだサウンドロゴという言葉はなく、『森永の音』と呼んでいた」(大森氏)という。“ピポピポ”は、いまだに森永のCMで使われており、“長寿”サウンドロゴとなっている。

 一方、サウンドロゴとセットになっているのが、企業のロゴマークをアニメーションにした「ムービングロゴ」。これが、動く商標だ。

 数多くのムービングロゴ制作を手がけている制作会社・アニメーションスタッフルームの藤井晃氏は、「高度経済成長期に広告競争が加熱するなか、競合商品との差異化を図ると同時にCI(コーポレートアイデンティティ)の認知度を高めるため、TVメディアのCMにムービングロゴを組み入れるスタイルが急増した。CMの前後にムービングロゴを出すことで、その商品に対する企業の社会的責任を示すという目的も含まれている」という。

 しかし今なぜ、動きや音を使った商標導入への動きが活発化しているのだろうか。

 「文字・図形などの視覚的に表示(識別)できるものしか登録商標として認めていない日本の商標法における商標の概念を見直す時期に来ている」と語るのは、久光製薬・法務部の堤信夫部長。「サロンパス」を筆頭にグローバルで商品を展開する同社では、動きや音の商標登録制度が導入された国や地域で、2000年ごろからいち早く動きや音の商標登録を積極的に進めてきたという。

 「ブランド商標は企業や商品に対する信用、イメージを伝達する役割を担うだけでなく、企業と消費者とのコミュニケーション機能も持つ重要な財産になっており、コストと時間をかけて保護しなければならない」(久光製薬・堤部長)。M&Aが盛んに行われ、企業のホールディングス(持ち株会社)化も進むなか、サウンドロゴやムービングロゴは企業イメージを効果的に伝える手段として重要になっていくだろう。

久光製薬では世界各国で動きや音を使った商標の登録を積極的に行っている(画像クリックで拡大)

(文/山下奉仁=日経トレンディネット)