この夏、携帯電話関連企業が力を入れ始めたことから、注目を集めている携帯電話の動画配信サービス。果たして「着うた」のようにブレイクするだろうか?

 携帯電話の新モデルが次々に店頭に並び始めた。中でもNTTドコモとauという大手2社が、この夏、全面的に打ち出しているのが「動画」だ。

 新モデル発表会でも、NTTドコモは「本格的なケータイ動画時代の幕開け」と宣言し、AKB48のメンバーを呼ぶなど動画を大々的にアピール。auも、携帯電話向け動画配信サービス「LISMOVideo」を発表し、会場に現れた映画評論家のおすぎが映像に驚くという一幕が見られた。

両社とも発表会で「動画」をアピール

DoCoMo

NTTドコモは夏モデル発表会で「ケータイ動画時代の幕開け」を宣言し、あらゆる角度からケータイ動画に取り組んでいくことをアピール。300本以上の動画を無料で配信するキャンペーンの実施を発表したほか、会場では同社向けの動画コンテンツとしても提供されている「AKB48」のメンバーも登場し、ケータイ動画をアピール。このほかにも、家庭の無線LANを使ってデータ通信が高速になる「ホームU」や、アニメーションやゲームができるデコメール「デコメアニメ」などの新サービスが発表された(画像クリックで拡大)

au

auは新しいサービスの柱の1つとして「LISMO Video」をアピール。ハリウッドのメジャースタジオの協力を得るなどして2000本以上の映像コンテンツを用意。動画の購入やダウンロードにはパソコンが必要だが、その分データ量が大きく、高画質・高音質の動画が楽しめるのが特徴。会場では映画評論家のおすぎがLISMO Videoを体験、小さなディスプレイながら質の高い映像が楽しめることに、しきりに驚いていた。またLISMO Video以外にも、「スポーツ」や「着せ替え」などを新しいサービスの柱にする方針のようだ(画像クリックで拡大)

 こうした出来事からも分かる通り、最近、携帯電話事業者(キャリア)はケータイ動画の本格的な普及に積極的に取り組んでいる。しかし今、これほどまで「ケータイで動画を見る」ことに力を注ぐのはなぜだろうか?

映画会社も参入

 キャリアが動画に取り組む理由は、大きく分けて2つある。

携帯電話でも海外ドラマはキラーコンテンツ。画像はケータイテレビQTVで放映している「LOST」
(C)Touchstone Television(画像クリックで拡大)

 まず1つは、携帯電話の進化でデータ通信速度がパソコンに近づきつつあるということ。動画はデータ量が大きく、従来の携帯電話で楽しむには速度的に厳しかった。だがNTTドコモの最新モデルである906iシリーズなどは、ADSL並みの高速通信を実現させている。

 そしてもう1つは、新たな市場に対する先行投資だ。急成長を遂げた携帯電話の有料コンテンツ市場も、最近では着うたなど多くの分野が成熟期に入っている。近年まで成長をけん引してきた「電子コミック」「装飾メール素材(デコメール等)」も、その伸びが一段落しつつあるといわれているほどであり、新たな成長分野として動画配信に目をつけてきたわけだ。

 その傾向を見ることができるのが、コンテンツを提供する企業の変化である。

 従来ケータイ動画を提供するのは、映像コンテンツを自社で持たないベンチャーが中心だった。だが最近では、コンテンツを持つ映画会社などが、ケータイ動画に取り組む姿勢を見せ始めているのだ。

 例えば角川グループでは、携帯コンテンツを手がけている角川モバイルが、2007年7月からNTTドコモ向け動画配信サイト「iムービーゲート」の提供を開始。同グループが権利を持つアニメや映画などを中心に、幅広い動画コンテンツの配信を行っている。

 さらに同サイトでは、携帯電話を中心としたオリジナルコンテンツにも力を入れており、楽曲と連動したオリジナルドラマ「ミュードラ」の配信を行ったり、携帯電話を活用したグラビアアイドルやアイドル声優のオーディションを雑誌などと連携して行ったりしている。単に動画を配信するだけでなく、携帯電話を中心としたメディアミックスに積極的に取り組んでいるという点からも、ケータイ動画に対する力の入れ具合を見てとることができるだろう。

“温度差”のあるキャリア

 こうした理由から多くの企業がケータイ動画への取り組みを進めているが、キャリアの取り組みを見ると、やや温度差を感じる。

 最も動画に力を入れているのはNTTドコモで、充実したインフラを武器に、データ量の大きな動画を携帯電話から直接ダウンロードして楽しめる環境を整えている。

 また動画専用のポータルサイト「ドコモ動画」を立ち上げ、6月からは300本もの動画を無料で配信するキャンペーンを展開するなど、ケータイ動画の認知向上にも積極的だ。

 auも、先に書いた「LISMOVideo」を6月3日から開始。ハリウッドのメジャースタジオ5社のバックアップを受けて海外の最新映画やドラマを配信し、NTTドコモに対抗する姿勢を見せている。

 だが「動画を携帯電話からダウンロードさせるのはやはり負荷が大きい」(KDDI広報)という理由から、動画データはパソコンからダウンロードし、携帯電話に転送して視聴する形をとっている。それゆえ気軽さには欠けるが、高画質・高音質の動画を配信できるという点を売りとしているようだ。

 一方ソフトバンクモバイルは、音声定額などに力を割いている事情もあってか、動画配信に積極的な姿勢は見せていない。

スタイルが浸透するか

 もっとも、ケータイ動画が普及するにはまだ課題も多い。最も大きな障壁は「携帯電話で動画を見る」というスタイルが定着していないことだ。ワンセグケータイの出荷台数が2007年7月末時点で1000万を超え(電子情報技術産業協会調べ)、「AQUOSケータイ」のように動画を見やすい携帯電話も増えてはいるが、まだ誰しもが携帯電話で映像を見る、という状況には至っていない。

 携帯電話の世界において、利用スタイルの定着はコンテンツの普及に大きな意味を持つ。着うたや着うたフルは、携帯電話に欠かせない機能である着信音から発展しており、あらかじめ利用スタイルが浸透していたことから早く定着した。一方、携帯コミックや「メロディコール」などのリングバックトーンは、最初から携帯電話の機能として存在していたわけではなく、利用スタイルが定着するまで普及が進まなかった。

 動画も携帯電話の機能に連動したコンテンツではないことから、認知度が高まり利用スタイルが浸透するにはもう少し時間がかかるだろう。だがケータイ小説のように、定着すればブレイクする可能性は高い。

(文/佐野正弘)

※この記事は日経エンタテインメント!(8月号)より転載しました。