テレビドラマにおける脚本家は基本的に裏方だ。「○○○○主演!」というドラマの宣伝文句は多いが、「○○○○脚本!」を売り文句にするドラマはそう多くはない。ところが、脚本家によっては、その名前がドラマの宣伝になることがある。山田太一もそんな脚本家の一人で、1934年生まれというから既に70歳を超えた大御所だ。

『山田太一ドラマスペシャルV「本当と嘘とテキーラ」』(テレビ東京系/5月28日、21時から放映)(画像クリックで拡大)

 5月28日にはその名前を冠した『山田太一ドラマスペシャルV「本当と嘘とテキーラ」』(テレビ東京系)が放送される。同ドラマシリーズは1995年にテレビ東京開局30周年記念番組として始まった。これまでに4作を放送したが、内2作品は民放連ドラマ部門で最優秀賞、1作品は同優秀賞を受賞するなど高い評価を受けている。いずれも、しっかりとしたキャスティングで、中年サラリーマンなどの人生の機微を描いてきた。

 今回の『本当と嘘とテキーラ』の大きなテーマは父と娘。主人公である尾崎章次(佐藤浩市)は企業の不祥事処理や社員研修など担当する危機管理コンサルタントの代表。2年前に妻をなくし男手ひとつで娘の朝美(夏未エレナ)を育てている。そんな折、少年野球のユニフォームを製造した会社が不祥事を起こすが、尾崎は真相を公表することなくすべての罪を検品担当部長の高野元洋(柄本明)にかぶらせる。謝罪会見を無事乗り切った尾崎の元に、今度は朝美の同級生が自殺したという知らせが飛び込む。しかも、どうやら朝美が自殺の原因になっているらしい。真相を語ろうとしない朝美。何を聞いても“テキーラ”だという…。

 タイトルにもあるテキーラはメキシコのお酒だが、本作品中では尾崎が「お客様の前で気持ちが沈んだ来たら、内心テキーラといってみましょう。ラ、ラ、ラ。笑顔になりやすい言葉です」と、社員研修で説明するように“本心を隠すためのおまじない”だ。朝美は尾崎に真実を話すように問い詰められても「テキーラ」と答え、作り笑顔を見せるばかり。尾崎は「本当」と「嘘」の間で揺れ動く。

 『本当と嘘とテキーラ』には特異なキャラクターや、今流行のイケメン俳優、若手女優が多数出ているわけではない。しっかりとしたキャストが、しっかりとしたセリフをつないでいくドラマだ。完成披露記者会見で山田太一は「小さな話を2時間以上かけて丁寧に描きました」と語り、主演の佐藤も「“山田イズム”が完成されている。(セリフで)主語を前に置くか後ろに置くかで微妙にニュアンスが違うところまで考えられている」と話すなど、本作品は山田太一の“作家性”が色濃く反映されている。

記者会見に登場した出演者。左から柄本明、樋口可南子、夏未エレナ、佐藤浩市。樋口可南子は、自殺した生徒の母親役を熱演した(画像クリックで拡大)

 本作が上質な大人のドラマに仕上がっていることは間違いないだろう。記者会見で披露されたダイジェストを見て、多くのマスコミがそう感じたはずだ。ただし、イケメンや若手女優を並べたドラマに比べて話題性が乏しいので、こうした人間ドラマが視聴率という数字で苦戦するのもまた事実。この点について、柄本明は「《視聴率が取れない》と、マスコミのみなさんが書いたほうが、逆に注目されるのでは?」とプロモーションの奥の手を披露して、記者会見場を笑わせた。

 最近は山田太一に限らず、有名な脚本家が自身の作家性を表現するような作品に挑むケースが目立つ。例えば、『男女7人夏物語』(TBS系)の脚本で有名な鎌田敏夫(1937年生まれ)は『ジュテーム〜わたしはけもの』(BSフジ)で、現代女性の心の葛藤(かっとう)を娼婦という特殊な職業の主人公を使って描いている。WOWOWの医療ドラマ『パンドラ』の脚本は井上由美子(1961年生まれ)。2003年に『白い巨塔』(フジテレビ系)で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した彼女は、同ドラマで「がんの特効薬」という深いテーマの作品に挑んでいる。

(文/渡貫幹彦=nikkei TRENDYnet)

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