この10年でプロレスと格闘技の立場は完全に逆転した。いまの10〜20代でプロレスに詳しい若者はほとんどいない。地上波のゴールデンタイムで流れていないのだから当然だろう。代わって彼らの心をつかんでいるのはリアルファイトの格闘技だ。なかでも立ち技も寝技もOKの総合格闘技は、新たなジャンルとして若者層から爆発的な支持を得た。一昔前まで総合格闘技は「バーリトゥード(ポルトガル語で何でもありという意味)」と呼ばれていたが、いまは「MMA(ミックスト・マーシャルアーツ)」という呼び名が一般的だ。

 そんなMMAで、今注目を集めているイベントが「DREAM」(ドリーム)だ。このイベントは3月15日に旗揚げしたばかりで、4月29日の第2弾に続いて、5月11日、6月15日と、立て続けに次の興行が決定している。

 「DREAM」の最大の特徴は“K-1(注1)系”のMMAイベント「HERO'S」と、“旧PRIDE(注2)派”が合体して生まれたイベントであることだろう。日本のMMA界は長きにわたってK-1とPRIDEがしのぎを削ってきた。その最たるものが大晦日の視聴率戦争で、毎年大晦日になると、TBSがK-1系の「Dynamite!」を、フジテレビがPRIDE系の「男祭り」を長時間放送して、視聴率戦争を繰り広げていた。

※注1:FEG(Fighting&Entertainment Group)が主催するヘビー級を中心とする立ち技(パンチとキック)格闘技のイベント。毎年年末に「K-1 WORLD GPシリーズ」を開催し、立ち技世界一を決めている。公式サイトはhttp://www.k-1.co.jp/k-1/

※注2:DES(Dream Stage Entertainment)が主催するMMAイベント。フジテレビで放送されるなど、「立ち技のK-1」と人気を二分していた

 しかし、2006年6月にフジテレビが「契約違反に当たる“不適切な事象"がDES(PRIDEの運営会社)で起きている疑惑が強まった」として、PRIDEの放送を休止した。すると、PRIDEは次第に弱体化して、2007年3月に行なわれた「PRIDE.34」を最後に11年の歴史に幕を閉じた。

 PRIDEがなくなったことで、MMAのビッグイベントはK-1系に集約されると思われたが、2007年末、PRIDEと対立していたK-1が「大連立」路線を唱え、旧PRIDE派に救いの手を差し伸べた。たとえば旧PRIDE派が2007年大晦日に主催した「やれんのか!」にはK-1から“韓国の大巨人”チェ・ホンマンや秋山成勲が参加。ホンマンはPRIDEヘビー級王者だったエメリエーヤンコ・ヒョードルと、秋山はPRIDEウェルター級GP王者の三崎和雄と戦った。今回の「DREAM」は、「やれんのか!」に続く大連立路線の第2弾といってもいい。

 だが、現時点で「DREAM」は苦戦中だ。多数の人気選手が参加する大掛かりな「DREAM GP(トーナメント戦)」を企画したものの、3月15日の旗揚げ第1戦で組まれたライト級の1回戦「青木真也VSJZカルバン」は没収試合に終わり、いきなりファンをガッカリさせてしまった。会場となったさいたまスーパーアリーナも満員にはならず、TBS系でのテレビ放送の視聴率も8.9%と、やや低調だった。

 「PRIDE」と「HERO'S」が手を結ぶことで今まで実現しなかった対決が続出して、2007年は停滞気味だった日本のMMAの起爆剤になる。誰もがそう期待した。だが、「宇野薫VS石田光洋」、前述の「青木VSカルバン」、「田村潔司VS船木誠勝」などファンが見たいカードは実現したものの、現時点では周囲が期待するような爆発的な効果は現れていない。

 最初から大掛かりなトーナメント戦を企画したことも、裏目に出た。4月29日の「DREAM.2」で再戦を組んだ「青木VSカルバン」の勝者をわずか12日後の「DREAM.3」で行なわれる2回戦に出場させる強行スケジュールなどは、その顕著な例といえるだろう。結局、青木は6月15日の「DREAM.4」で永田克彦と2回戦を行なうことになったものの、選手の体調よりも大会スケジュールを優先させる運営には首を傾けざるを得ない。さらに5月11日「DREAM.3」で行なわれるライト級GPの2回戦に主催者推薦枠でシード出場することになった宇野薫に対して、1回戦を勝ち抜いた対戦相手の石田光洋が「いきなり2回戦から出てきて…」と、露骨に不快感を示すなど、運営方法に対する批判は後を絶たない。これもファンが盛り上がりきれない原因になっているのは間違いない。

 人気選手の“DREAM離れ”も表面化している。秋山との再戦が期待された三崎はWVR(World Victory Road)が3月に立ち上げた新MMAのイベント「戦極」を選んだ。初代PRIDEライト級王者の五味隆典も「戦極」に参加している。このほか、吉田秀彦、ジョシュ・バーネット、藤田和之、瀧本誠などPRIDEで人気だった選手も「戦極」を主戦場としている。

 「DREAM」がPRIDE全盛期のような人気を獲得するには、もう少し時間がかかりそうだ。「DREAM.2」で組まれた青木とカルバンの再戦は期待にたがわぬ好勝負となった。内容の濃い試合が続出すれば、「DREAM」に対する評価も変わってくるだろう。ただし、格闘技界の一寸先は闇。現在のところ「DREAM」と「戦極」は微妙な距離を保っているが、さらなる大連合がないとも言い切れない。少なくとも年末までには、また新しいMMA勢力図ができているような気がしてならない。

(文/布施鋼治=スポーツライター)

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