世田谷尾山台のショールームの車庫を出発するとき、環八から入ってきた別のアウディとぶつかるのではと思ってしまった。全長4705mm、全幅1825mmのボディは、いざ乗ってみれば想像していたよりもはるかに大きい。広報のスタッフが見送る中を、もたもたしながら、慎重に前へ車を進めた。まるで初心者に戻ったような気分だ。

 環八に乗り出す。ゆっくりと走ってはいられない。周囲の車の流れに乗ろうとアクセルを踏み込めば、全くつっかかるところがなく、スムーズに加速する。氷の上を滑るペンギンの姿が頭に浮かぶ。いや大きさからすればトドか。目黒通りを東京方面に向かうため側道方向にステアリングを切る。もはや大柄なボディは気にならない。筆者は体重を持て余して、コーナーワークに失敗して転ぶことがあるが(情けない)、新型A4はあくまでもエレガントに、何事もなかったかのように、きれいな曲線を描いて進んでいく。

 すでに自分の運転に酔いしれている。もちろん、本当は車の力だ。筆者の愛車は1966年製のポンコツであるため、無理やり曲がったり、ドライバーまで汗をかかないと加速しなかったりする。芸を一つも覚えない駄犬を、散歩に連れていくような難しさにあふれ、ドライブの後は軽い筋肉痛に見舞われる。比べるのもどうかと思うが、A4の運転感覚はまったく別次元。社交ダンスは踊れないと断っているのに、無理やりフロアに連れ出され、見事なリードで「あら、結構僕って踊れたんだ」とうぬぼれてしまうような感じだ。

全幅1825mmに対して全高1440mmと低い。個人的には台形のグリルに良い印象を抱いていなかったが、低い位置にカメラを構えると美しい(画像クリックで拡大)

先代と最も異なるのがヘッドランプのデザイン。ホルモンタンクがあるようで可愛く思えるのは筆者だけか(画像クリックで拡大)

 一番不思議なのは、スポーティーなのにもかかわらず、飛ばそうという気がしないこと。走行性能が高い車を借りると、ついつい急加速してみたり、白バイが気になるような速度域までエンジンを回してしまったりするものだ。実際に昨年夏、ルノーを試乗したとき、長野自動車道で覆面パトカーにつかまってしまった。幸い免停にまでは至らなかったが、もうスピードの出る車は借りないと自分に言い聞かせていた。

 ところが新型A4ときたら…なぜだろう。これほど飛ばせる車なのに、ドライバーをその気にさせない。運転は確かに楽しい。ステアリングで曲線をトレースする喜びを、今まで乗ったどの車よりも感じさせてくれる。だが、筆者の心のどこかにブレーキをかける。

 一言でまとめれば大人のクルマなのだ。エクステリアのデザインも、これ見よがしなところがない。車に詳しくない人がA4を街中で見かけたとしても、一番安いモデルで400万円を突破する高級外車だとは気付かないだろう。よくみれば大柄なボディにもかかわらず、車高は1440mmに抑えられており、スポーティーさと高級感を兼ね備えていることが分かる。パッと見は美人でないが、スタイルは抜群である。こういう車のよさが分かるようになったとすれば、自分も成長したものだ。と、またまた酔いしれてしまう。どうやら、触れるものを勘違いさせてしまうオーラに満ち溢れているらしい。