会場に居合わせた人々は皆、伝説を観たのだと思う。バンドは間違いなくベストメンバーであり、だからチケットは即完売で、追加の立ち見席まで売り切った。もっと大きな会場でやることもできたのだろうが、そこをあえて武道館にするところがいかにも清志郎らしいと思う。

復活ライブで武道館を満員にした忌野清志郎(写真/加藤正憲)(画像クリックで拡大)

 超満員の会場には、実に多様な人たちが観客として集まっていた。ざっと見たところ30歳代の後半から50歳代前半が中心。子供連れのカップルも多い。普段のロックのライブと違い、どこにでもいそうな人たちが、ごく普通の格好で集まっている。そんなところも、いかにも清志郎の復活祭らしかった。今日は何かを発散させる日ではない。帰ってきたロックスターのお祝いパーティなのであり、もし我々の側に発散させるものがあるとすれば、これまでため込んできた不安な気分であっただろう。

 「大変お待たせいたしました」という場内アナウンスから、すでに場内は総立ちになった。まずバンドが登場する前に、療養中の清志郎の姿がプロジェクターに映し出されたが、これが素晴らしかった。抗がん剤治療のために毛髪の抜け落ちた坊主頭から始まり、徐々に髪の毛も生えそろい、それを時々変な髪形にしてみたりしながら、ついに髪を立て、メイクをキメて清志郎に戻るところまでのスライドショー。

 入場者には快気祝の手ぬぐいが配られた。粋な計らいだと思ったが、実はこれで涙をぬぐえ、ということだったのかもしれない。すでにこの段階でうるうるきていた人が多数。途中「2年間よく寝たぜ」というフキ出しが入るようなお茶目な映像だったが、それでもこみ上げてくるものがあるほど、ここに至るまでの事態は深刻だったのであり、それゆえ今日は全国からファンが駆けつけたのだ。

 それにしても、これだけ人の入った武道館は初めて見た。ステージの後ろも含め、会場の全周、どこを見渡しても人がぎっしり詰まっている。普段は暗幕が張られるステージ裏の「北」にまでお客さんが入っていたが、実際のところ、これは演出としても効果的だったと思う。武道館はこの日に限り、日本一大きなライブハウスになったのである。