2007年12月10日、アナログレコード店の大手である「シスコレコード」が、東京と大阪に構えていた5店舗すべてを閉店した。今後は実店舗を持たず、オンライン販売専門で営業していくと言う。DJ用の輸入レコードを主に取り扱い、日本のクラブカルチャーを長きに渡ってサポートしてきた同店が下したこの決断に、音楽業界は大きな衝撃を受けている。

シスコレコードが公式サイトに掲載した店舗閉店のお知らせ。2007年12月10日をもって、東京、大阪に構えていた全店舗を閉店し、オンライン販売へ移行した

 シスコレコードが店舗を閉じる理由の一つは、オンライン販売に特化した方が効率が良いことにある。大量の楽曲を扱うDJにとって、レコードは重くかさばるし、店舗で商品を探したり、試聴するのも大変だ。その点、オンライン販売であれば、検索も試聴も自由にできるし、注文した商品は配送してくれる。実際、アナログレコードを扱っているお店のほとんどがオンライン販売を導入しているし、オンライン専門店も数多く存在する。

 とはいえ、店舗をたたむ背景には、やはり“売り上げ不振”の影がちらつく。アナログレコードは、ダンスミュージックやクラブカルチャーの隆盛によって、CD登場以降の絶滅の危機から脱却。90年代を通じてその輸入量は増加し、2000年には約930万枚の総輸入量を記録した。だがこの年をピークに再び減少に転じており、2005年(現時点での最新統計)には約530万枚にまで落ちた。2005年以降も減少傾向にあることが予想されるため、各アナログレコード店も、相応の打撃を受けていると考えるのが妥当だろう。事実、シスコレコードと並ぶ有名アナログレコード店である「マンハッタンレコード」も、先日1店舗を閉店している。世界有数のアナログレコードの街と呼ばれていた渋谷だが、ここ数年で店舗数は激減しているのだ。

 売り上げ不振の理由として注目しておきたいのは、クラブの現場でアナログレコードの姿が消えつつあるという事実だ。パソコン内の音楽データをプレーできる、いわゆる“DJソフト”が、ここ数年で広く普及。多くのDJがアナログレコードの使用を止めて、ノートパソコンを使った“デジタルDJ”に乗り換えているのである。

 DJソフトは2000年ごろからさまざまなものが存在していたが、爆発的な普及の大きなきっかけとなったのが、2003年に発売されたSerato社のパソコンソフト「Scratch Live」(実売価格:8万3000円前後)の登場だ。このソフトが画期的だったのは、特殊な音を発する専用のアナログレコードを使い、それまでのDJプレイと全く同じスタイルで、パソコン内の音楽データを扱えるようになったこと。現在、クラブの現場で使われているDJソフトは、ほとんどが、このSerato社の方式を取り入れたものと言っていい。

 こういったDJソフトの普及によって、DJはアナログレコードの重量や、輸送時における盗難や破損の危険性などから開放されたわけだ。圧縮された音楽データを扱うことには、音質面などで問題があることを指摘する声もあるが、DJソフトのさらなる普及や進化によって、こうした課題は徐々に改善されていくだろう。

 クラブカルチャーの中で、アナログレコードはその役割を終えつつあるのかもしれない。しかし、クラブという現場に音楽があふれ、その音楽を求めて多くの人たち集まってくる状況は変わらない。店舗の減少という事実だけをもって、これをいま悲劇と捉えるのは時期尚早だろう。ネット配信など、音楽を伝えるメディアが変化を迎えつつある現在の状況には、また新たなビジネスの可能性も大いにあるはずだ。

(文/澤田大輔;Spoo! inc.

■関連情報
・シスコレコード オンラインレコードショップ http://www.cisco-records.co.jp/
・「Scratch Live」紹介サイト(輸入代理店ヒビノ内) http://www.hibino.co.jp/proaudiosales/product/rane/seratoscratchlive.html