少年漫画で一時代を築き、アーティストとして超一流となった原哲夫。実は彼には『週刊コミックバンチ』の編集を行う「コアミックス」や、著作権の管理運営などを手がける「ノース・スターズ・ピクチャーズ」の会社を設立した超一流のビジネスマンという一面もある。パチスロ『北斗の拳』の大ヒットが記憶に新しいが、両社ではキャラクターの版権管理や運営、物販を手がけ、さらにはボノロンのような「フリーペーパー絵本」にも取り組むなど、さまざまなビジネスを展開している。今回はそんな「ビジネスマン原哲夫」の横顔にスポットを当てる。

経営者の視点で働く意義を語る原氏。(写真/中島正之)(画像クリックで拡大)

 『北斗の拳』の登場人物や『森の戦士ボノロン』など、自身が生み出したキャラクターやこれまでの執筆活動についてはよどみなく答えてくれた原氏。しかし、「経営者として」という話題に移ると、とたんに考え込むような表情に変わり、しばらく沈黙が続いた。突破口となったのは、ポツリとつぶやいた「ビジネスも漫画も要は同じなんだよね」の一言だった。

 「僕はいつも描く立場ではなく、見る立場で仕事をしたいと思っていますからね。見るほうの望みはぜいたくでしょ。全編オールカラーで読みたいなんて言う。僕はそれに応えたいと思うわけですよ。僕は小さいころから人を楽しませるのが好きでね。いろいろやりましたよ。全校生徒の前で芸をやったりとかね。笑わせることが大好きだった。お笑い系だったんですね。人を喜ばせることができたときって快感でしょ。そういう気持ちが作品やビジネスにも入っているわけですよ」

 買う人の立場でものを作る。これは職人の基本精神だろう。ビジネスマンも漫画家も根っこの部分では同じなのである。そういった目線で最近のビジネスマンを見ると?

 「まぁ、若手全般に言えることだけど、仕事に対してビビッているっていうか、責任を負わされないように逃げ腰というか。いつでもパッと飛び降りれるようにしておこうという感じがあるよね。それってよくない。どっかで責任を取る覚悟がないとかっこよくないと思うね。責任って怖いことなんですけどね。自分が非難されるわけだから嫌だろうけど、武士道の精神とでも言えばいいのかな。ケンシロウのように『死人(しびと)の覚悟』というかね。今は戦国時代じゃないから別に死ぬわけじゃないけど。とにかく『覚悟』は必要だと思う。昔のお侍さんみたいに切腹しなくてもいいわけだから、もっと『開き直ってやってやる!』という感じでいいんじゃないかと。会社の若い連中にはこんな話をしますね」

 若いころからアシスタントなどを使ってきた漫画家だからこそ、人を見分ける眼力には確かなものがあるはずだ。企業の経営者となった今、原哲夫が求める人材とは?

 「仕事を楽しんでやろうという人。これが大事。イヤイヤやるんだったらやらないでいい。やる以上は楽しんで、命がけで楽しんでやらないと。ぼくらの仕事って極端な話をすると、必要のない仕事だから」

 漫画、さらにはエンタテインメントなどなくても人は生きていける。確かにそうかもしれない。だからこそ『死人(しびと)の覚悟』で仕事を楽しみ、読者を楽しませようとしてきたのである。

 「必要のないものを必要のあるものにしていこうという気持ち。これがないと我々のビジネスは成り立たないでしょ。愛してもらえるようなものを作るっていうのが僕らの仕事だから。そこに価値を見出していくっていう面白さ、ここに気づいてもらうこと。これが一番求めるところですね。時給や月給をもらうために時間をつぶしているとしか思えない人間がいるけど、そういう生き方は本当にかわいそうですよ。そういう人は結局あとで後悔すると思う」

 ケンシロウに敗れ、自らの人生を閉じようとしたそのとき、ラオウは天空を指差してこう言った。

 「わが生涯に一片の悔いなし!!」

 そう言いきれる人生を送る人間がどれだけいるだろうか? せめて「わがビジネス人生に一片の悔いなし!」くらいのことは言いたい。そのためには「命がけで楽しむ」ことが必要。これがビジネスマン原哲夫の神髄なのである。

(文・構成/末並俊司)