1980年代を代表するマンガである『北斗の拳』。原作の原哲夫は、ケンシロウ、ラオウなど数々のキャラクターを生み出してきた。その魅力は連載開始から20年以上を過ぎた今でもあせることなく、パチスロに採用されるや人々が熱狂したのは記憶に新しい。漫画家としてまだまだ現役を続ける原哲夫の“今”を三回に分けて紹介する。初回は原哲夫がプロデュースする新キャラクターにスポットを当てる。
東京・吉祥寺の仕事場に現れた原哲夫はきちっとしたオールバックにミラーのサングラス、たくし上げた袖から見える腕は妙にいかつい。少し強面(こわもて)を装った、まさに漢(おこと)。画風以上に存在そのものが劇画調の原哲夫だが、『北斗の拳』とは一見似ても似つかない世界にも力を入れている。
それが『森の戦士ボノロン』。2005年の6月から隔月で刊行されているファンタジー絵本である。それも、全国のセブン-イレブンで配布されるフリーペーパーなのである。刊行部数は100万を超え、11月5日からはCS放送でテレビアニメとして放映もスタートする。まさに旬のキャラクターになりつつある。
ところで、原哲夫をといえば、『北斗の拳』で漫画界にセンセーショナルを巻き起こし、ケンシロウやラオウ、さらに今回の愛らしいボノロンなど、魅力的なキャラクターたちを数多く創造してきた。その原点はどこにあるのか。
「漫画の勉強を始めるとき、小池一夫先生の劇画村塾に通ったんですよ。そこで『漫画=キャラクター』ということを徹底的に教え込まれまして、それが今でも生きているんだと思いますね。そもそも僕の場合、少年時代から強くてかっこいい男の人にあこがれてたんで。だからそういう絵ばっかり描いてたんですよ。松田優作さんとかブルースリーとかね。僕はどちらかと言うとひ弱な方で、運動も苦手だし、だからそういう人にはなれないんですね。ずっと憧れを絵に描いていたということ。今考えるとそれがケンシロウなんかに結びついているのかもしれませんね」
力持ちで優しいお相撲さんのイメージというボノロンは巨木の森、タスムンからやってきた森の戦士。悲しんでいる人が涙を流すとその涙が世界中にある巨木の根を通ってボノロンに伝わる。するとボノロンが悲しんでいる人のもとに現れて問題を一緒に解決してくれるという物語だ。
「ボノロンについてはもともと以前から子供向けのようなこともやりたいってのがあったんですよ。ところが僕の場合、漫画ではやりにくいでしょう。でもプロデュースという感じだったらできるかなと思ってね。漫画の中ではキャラクター作りを積み重ねてきたっていう自負もあったし、かっこいい男だけじゃなくて、ちっちゃい子供もバケモノみたいなキャラクターもいろいろ描いてきた。だからこういうもの(絵本)もできるだろうなっていう確信はありましたね。それと、自分にも子供が生まれて、幼い時期に自分の作品で子供を喜ばせてあげたいなっていうのがあったんですね。でも北斗じゃできないでしょ。ディズニーとかアンパンマンとかだったりするわけですよ。それがちょっとね。納得いかないな、っていうか(笑)」
去年一年間を見ると、日本国内で刊行された書籍の点数は約7万8000点。このうち絵本は約2300点、わずか3%でしかない。1万部でヒットといわれる絵本の世界で、フリーペーパーとはいえ『森の戦士ボノロン』は毎回100万部を刊行する。
ボノロンは、B5判で24ページ。毎回読みきりの心温まるストーリーがオールカラーで楽しめる。そのクオリティーはフリーペーパーの域を超えているといっても過言ではない。さらに、インターネットの公式サイトでは野々村 真さんや山口もえさんなど、有名芸能人を迎え、朗読による読み聞かせの音声もアップしている。もちろんこれもフリー。
「『ボノロン』はね、これはもう子供たちへのプレゼントですよ。仕事に明け暮れている両親がいて、もしかしたら子供がほったらかしになってるかもしれないという状況があって、そうだとしたらすごくまずい。要するに、人間ってもともと動物だからちゃんと教育とか愛情みたいなものを注がないと人間にならないんですよ。」
既存のメディアに尻を乗せるのではなく、「フリーペーパー絵本」やネットによる「フリーの読み聞かせ」など、これまでにない試みは次第に注目されるようになった。
「無料だからといってビジネスを度外視しているわけじゃないんですよ。キャラクタービジネスっていうのは、そのキャラクターを認知させるためにある程度の量が必要ですからね。さらにキャラクターっていうのは定着するのに3年とか4年とかかかるんですよ。フリーで配布するというのは、種蒔きをしてるってことです。今はスタートから2年過ぎたから蒔いた種が芽吹いて、今は根と幹を育ててるっていう感じですかね」
「ケンシロウもボノロンも魅力のあるキャラクター作りという点では同じ」と言い切る。『北斗の拳』に描かれた数々のキャラクターたちの中には主人公ケンシロウの人気を凌ぐ者さえいる。個性のある多くのサイドキャラがあってこそ、物語は愛されるのだ。
『森の戦士ボノロン』でも主人公以外の人気キャラクターが増えつつある。根はしっかりと大地に張り、力強い幹が育っているのだ。その証拠にこの11月からCS放送のキッズステーションで『森の戦士ボノロン』のアニメ化が決定。刊行から3年を経て、ボノロンというキャラクターも世間に定着し始めている。
「人間はカブキ者(=大衆と違った生き方する人)であり続けることに生きる意味がある」と原哲夫は言う。なるほど前例のない「フリーペーパー絵本」の世界に飛び込む姿はカブキ者を彷彿とさせる。しかしただ無謀なだけではもちろんない、前例がないからこそ宝も掘り返されていないと判断したのだ。「ボノロン」がビジネスの大きな宝を掘り返す日も近いのかもしれない。
(文・構成/末並俊司)











