ITを活用して医療現場の変革に取り組む医療従事者グループ「Team 医療3.0」は2012年8月5日、医療や医学の現場におけるIT/iPhone/iPadの活用事例を紹介するセミナーを東京銀座のApple Store銀座で開催した。現役の医師や薬剤師が語るiPhone、iPadの活用事例に医学部生や医療機関のIT部門の担当者が熱心に耳を傾けた。

 Team 医療3.0の共同発起人であり、iPadをいち早く手術室に持ち込んだことで有名な神戸大学大学院の杉本真樹氏は、「ITは特別なものではない。ITを活用して閉塞感のある医療界を変えていきたい」と語った。Team 医療3.0の立ち上げに尽力した元アップルジャパン社員で現アイキューブドシステムズ取締役の畑中洋亮氏は、「医療現場へのiPhone導入を進める活動をしていた際、病院に高価なシステムは導入されているものの、現場では使われていなかった」と当時の様子を振り返った。その状況がiPhoneなどのモバイル機器の登場で徐々に変化。一般企業で進むコンシューマライゼーション(一般消費者向けのテクノロジーやサービスを企業で活用する現象)が医療の現場でも徐々に始まっているという。

 医師であり薬局の運営も手がける狭間研至氏は、在宅医療の支援拠点としてコンビニエンスストアよりも多い薬局が重要な役割を果たせるとし、「その際に医療機関との情報共有、訪問時の患者とのデータ共有にiPadが役に立つ」と述べた。同氏は聴診したい位置をタッチすると、その部位の実際の聴診音を聞ける「タッチ de 聴診」など、医療関連のiPhone、iPadアプリの開発も手がける。

 桜新町アーバンクリニックの看護師、片山智栄氏も在宅医療にiPadやiPhoneを活用している。画像や動画を簡単に見られるのは患者にとっても、看護する家族にとってもメリットがあるという。患部の改善状況の比較を写真で見せれば、患者もわかりやすい。抜針の手順を動画で撮影しておけば、家族が抜針する際に参考になる。

Team 医療3.0の共同発起人の神戸大学大学院の杉本真樹氏。医師であり、医学生の教育にも力を入れている
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アイキューブドシステムズ取締役の畑中洋亮氏。iPadを導入する中古車販売大手ガリバーのアプリ開発などを手がける
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医師であり薬局を運営する狭間研至氏。医療関連のiPhone、iPadアプリも開発している
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看護師の片山智栄氏。介護する家族にもiPhoneやiPadは役に立っていると実例を紹介した
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 済生会栗橋病院の外科医である網木学氏は、手術教育にiPadやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、動画共有サービスを活用している。「手術書ではわかりにくい点が、動画なら感覚的にわかる。その情報はFacebookで共有している」(網木氏)。医師同士の情報共有にもFacebookを活用。「iPhoneでいつでもどこでも情報が見られるので、病院に呼び出される回数が減った」とSNS導入の効果を語った。

 最後に登壇した東京医科大学2年生の宮川紫乃氏は、教科書のデジタル化を推進する活動を紹介。「重い、厚い、高い教科書をデジタル化し、iPadで持ち歩ければ学習効率を高められる」と語った。米国に比べてiPadを導入する大学の数が少なく、学校側に導入を働きかける活動も継続していきたいとした。

 佐賀県では55台の救急車にiPadを導入し、空き病院の検索などに活用。スムーズな受け入れ体制の構築に向けて活動を続けている。同システムは佐賀県以外の自治体にも広がりを見せている。医療現場へのiPhone、iPadの導入は着実に進んでいるが、「まだまだこれから」と杉本氏。医療界の変革に向け、Team 医療3.0の活動は続く。

外科医での網木学氏は、医者同士の情報交換にFacebookを利用している
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東京医科大学2年生の宮川紫乃氏。学生もITを活用し、医療の改革に取り組んでいる
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(文/三浦善弘=日経トレンディネット)