(文=長坂 道子)

 何事にも保守的で変化を好まないチューリッヒにおいて、ここ数年、かなり例外的に急速に変化しつつある町、それがクライス5(5区)、別名“チューリッヒ・ウエスト”と呼ばれるエリアだ。

 このエリアは、もともと産業革命時代に一挙に開発された工場地で、その象徴は鉄道や水力発電所、重工業の工場群。高い煙突からもくもくと煙を吐き出すような無愛想な建物が連なり、運送用の貨物船がジール川に浮かび、鉄道の支線が真ん中を貫くような場所だった。

 それが1980年代半ば頃から、一つ、また一つとこうした工場が閉鎖。製造拠点が都会のど真ん中にある時代は終わりを告げ、企業は工場を次々と郊外や外国へと移転させるようになる。結果、国際都市チューリッヒの地理的な中心地に、突如、大きな工場跡地が出没。最初は徐々に、やがて急速にこの「新たな空き地」に新しいスポットが誕生。クラブ、レストラン、劇場、ギャラリー、オルタナティブ系の個性的な店などが次々とオープン。現在では、チューリッヒでもっともトレンディなエリアとして注目を浴びつつ、さらに発展し続けている。