この記事は「日経ビジネスオンライン」に2015年6月30日に掲載された記事を転載したものです。内容は基本的に日経ビジネスオンラインに掲載された時点のものとなります。

--孫さんは経営を将棋に例えて話すことがあります。

孫正義(以下、孫): 将棋の王将の役割とさ、飛車とか角とか歩とかいろいろな駒があるじゃない。僕が思うには結局、バランスなんだよね。やっぱり子供のときは飛車が格好いいとか、角はすごいとか思う。

(写真:的野弘路)

--王は少ししか動けないとか。

孫:王様、卑怯だと、しょぼいなと、一つしか動けんじゃん、逃げ回ってばっかりやんとか(笑)。何か、常に部下の後ろに隠れている、汚いぞとか、何でもっと男らしく行かないんだと。潔くスパンと行けないんだ、じれったいとか思ったこともあるよね。何でそれなのに王様と偉そうな名前ついているんだと。
 でもね、やっぱり少しずつ大人になってきて、なるほどなと、深いなと思ったのは、結局ね、飛車とか角はね、詰め寄られやすいんだよね。もう動く方向がわかっているもんね。
 勇ましいんだけど。結局、天下、国家を押さえられる男じゃないだよね。ズバッと鮮やかな動きを見せたりするんだけど、やっぱりトータルバランスとしてちょっと足りないなと。それはね、しょせん飛車、角なのよ。勇ましくていいんだけど。

小さいながらも最初からの王様はしぶとい

--ユーザーの需要が、何か一つの特徴に収れんされる部分もありますよね。

孫:ある種の一世を風靡するのはそれだと思う。でも、本当のナンバーワンになって勝ち続けていくためには、やっぱり最後はトータルバランスだと思うんだよね。
 一時的には少なくともその何かとがった部分でバンと抜きん出て、シェア伸ばさなければいけない。でも、最後に本当の王様になろうと思ったら、やっぱりバランスよく保たなきゃいけない。
 日本の大企業経営者の特徴として、営業は営業畑ばっかりでずっと来たとか、技術は技術畑だけでずっと来た人が、ある日突然ね、何人かいる役員、専務とか副社長の中から突然社長に任命されるというケースがある。
 突然、王様の役割をしなきゃいけなくなる。それこそ営業についてやたら詳しいけど、残りは半人前だと。技術についてはやたら詳しいんだけど、ファイナンスがわかんないとか、そういういわゆるサラリーマン社長が多過ぎるんだよね。
 小さいながらも最初から王様の役割を果たしてきた奴はしぶといのよ。創業社長が強いのは、小さいながらも知識の面も苦労して、営業も苦労して、技術も苦労してきたから。柳井さんとか、永守さんとかは、少々好景気不景気いろいろあってもしぶといじゃん。
 少々あってもはい上がっていくじゃん。いよいよ今度こそだめだぞとか、もうフリース売れなくなったらだめだとか思っても、やっぱりしぶといじゃん。
 それは小さいながらも最初から王様やって、資金繰りも苦労して、営業も苦労して、技術も苦労して、人事も苦労して、社員がやめていくなんていうのも体験している。
 だから、結局バランスよくトータルでの王様としての役割をもう10年、20年、30年続けて、そのパワーバランスのままどんどん強くなっている。
 ところが、大企業のサラリーマン社長というのは、そうでない場合が多いから。もう営業だけだったり、技術だけだったり、もう技術の面でガンと抜きん出て…。個人名を挙げると差し障りがあるから挙げにくいけど。