鍋工房 姫野工作所製造「釜浅別注矢床鍋」
8年使い込んだ矢床(やっとこ)鍋の底がこの輝き! 綺麗に光を反射してくれる。購入時のミラーボールのような輝きが想像できるだろう。収納性に優れ弱火のコントロール抜群。我が家の製品は、合羽橋・釜浅商店の別注品で「釜浅」の銘が入っている。5寸5740円、6寸7720円、7寸9700円(いずれも税込み)がある。蓋は別売。持ち上げるための「やっとこ」(2200円、税込み)も販売している。鍋の厚みと合ったものを選ぶのが望ましい
●釜浅商店
東京都台東区松が谷2-24-1
TEL:03-3841-9355
営業時間:月~土 9時30分~17時30分、日・祝日 10時~17時30分 年中無休(年末・年始を除く)
公式サイト:http://www.kama-asa.co.jp/
●姫野工作所
同じ製品で「姫野」の銘が入ったものも販売されている
取扱店舗は、姫野工作所の公式サイトを参照
[画像のクリックで拡大表示]

鍋は一生ものを選ぶとボクが決めたワケ

 「いつも使っている好きな道具を自由に紹介していいですよ」。そうお声がけいただいたのは、1年半ほど前の話だった。「いいんですか? マジで? あんなのとか、こんなのとか、へんてこりんな道具紹介しちゃいますよっ!」と二つ返事で書かせていただくことになった。30年ほど、いろんなメディアで道具を紹介する仕事をしてきたが、これほど自由にお気に入りの道具の話を書かせていただくなんて経験は初めてのこと。「いやぁ、天職だぁ!」。できれば毎週書かせていただきたいほど楽しい連載であった。ご愛読いただいた読者の皆様、ご高配いただいたメーカーの皆様、並びに編集部にただひたすら感謝しつつ最終回を始めたい。

 さて、最終回にふさわしい「ガチいいもの」は、なんだろう? ボクなりに、散々頭を悩ませた。ハンドドリップ? と間違ってしまいそうに旨いコーヒーが入ってしまう電動コーヒーメーカーも良いかも? イヤイヤ! オリジナルのドリンクはもちろん、軟らかに肉の煮込み料理を仕上げてくれる炭酸水メーカーも良いよねぇ。鋳物ですか? マジですか? と凄く軽い鋳物のフライパンも捨てがたい……。まだまだご紹介したい道具は山ほどある。が、数あるオススメ道具の中から、東大阪の町工場が作る打ち出し矢床鍋に決めた。なぜって、その鍋はリビングにディスプレイしたくなるぐらい美しく、そして機能的かつ合理的に作られているからだ。

キラ~ンと輝く我が家の矢床鍋。やっとこで鍋を持ち上げる際に、どうしても小傷が入っていくのが残念なのだが、使い込むうちにそれもまた風格となる
[画像のクリックで拡大表示]

 まずは、この鍋に行き着くまでの我が家の鍋の歴史からお付き合いいただければ幸いである。

 のっけから手前味噌な話で恐縮なのだが、我が家の家庭料理は旨い!と言うと、家内の腕が良いのか? と勘違いされてしまいそうだが、家内に言わせれば「料理は苦手だしむしろ嫌い」だという。で、ボクは、腕ではなく鍋と調味料のお陰が大きいのではないかと思っているわけだ。

 実をいえば、我が家にはちょっとフツウの家庭では考えられない数の鍋がある。琺瑯鋳物の鍋だけで十数個はあるだろうか? 3人の息子たちが成長するにつれ、その驚異的とも思える食欲を満たそうと、より大きな鍋へと次々に買い足していった結果なのだが、それにしても尋常ではない。キッチンには置ききれず、しまいには専用の収納棚をリビングに置く始末だ。

 もちろん、結婚当初は、薄いアルミやステンレスの安物の鍋を使っていた。が、とある取材先で出会ったフランスのクーザンス(現在は、ル・クルーゼにブランド吸収されている)の蓋が凹んだ鋳物琺瑯の鍋は、いかにもかつて大砲を作っていたメーカーの製品だけあって、重厚であり、お店の方の説明によれば、蓋に氷や水を入れることで、鍋内で生まれた湯気が冷やされまた水に戻る。鍋も厚手の鋳物なので蓄熱性が高くシチューなど煮込み料理が抜群に旨くなるとのことだった。当時のボクの月給は、手取り13万4000円ほど。3万円もする鍋を買うのは、暴挙としか言えないが、身の程知らずにも、ついつい買ってしまったってわけだ。

 で、使ってみて、正直驚いた。いつもの具材、いつもの手順で作ったシチューがまるで別物の味に仕上がってしまったのである。鍋にも性能があるのだということを知った瞬間であり、ある意味カルチャーショックな鍋との出会いであった。

 結果、前述の琺瑯鋳鉄鍋が十数個、フライパンや中華鍋も鋳物と極厚鉄板と重量級ラインアップが我が家の調理道具の主流を占めることになった。