パソコンでSNSを利用するシニア女性はいるのか

 シニア向けのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が立ち上がってきた。

 この領域では、シニア男性を中心とした「趣味人倶楽部」が先行していて、約30万人の会員数を誇っている。2013年9月に、これを追う形で、60~70代のシニア女性向けSNS「いきクル」がサービスを開始した。開始後1年強で、会員数は2万人(2014年12月時点)だ。今回は、このサービスの開発手法を詳しく取材することができたので、紹介したい。

 キーワードは「リーンスタートアップ」である。後述するが、シニア女性向けのSNSというのは、実は市場が相対的に小さく、新しいサービスとしては不確定要素が多くて立ち上げにくい。

 そのような状況下で用いられるサービスの開発手法が、リーンスタートアップということになる。そして、いきクルでは、この手法をうまく利用することで、サービスの立ち上げに成功している。

 まずは、いきクルのサービス概要から紹介することにしよう。

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 そもそもいきクルは、シニア女性向け雑誌「いきいき」の会員向けサービスとして開始した。サービス名のいきクルは、「50代+女性のためのいきいき交流サークル」の略である。

 現時点では、雑誌の定期購読者に限定したSNSになっている。雑誌の販売部数が約20万部なので、購読者の約1割がいきクルに参加していることになる。

 いきいき株式会社の宮澤孝夫社長が、最初にいきクルの構想をしたのは、2011年のことだった。当時は、紙の雑誌の部数減少が出版業界全体として問題になっていたが、実は、いきいきのようなシニア向け雑誌に関しては、大きな影響はなかった。

 というのも、いきいきの主力読者層が60~70代の女性だったからだ。しかも、いきいきは書店では買うことができない定期購読の雑誌だ。新聞の全国紙に広告をうち、購読を希望してきた読者に、毎月雑誌を送付するというビジネスモデルである。

 だから、書店での部数減少に苦しむ他誌に比べて、それほど変化を求める必要はなかったかもしれない。とはいえ、雑誌が順調なうちに新しいメディア展開を模索しようと宮澤社長は考えた。そのような状況下で始まったのが、いきクルの事業ということになる。

 しかし、この当時入手できたマーケティングデータによれば、60~70代のインターネット利用率は30%前後。しかも、その大半が男性で、同年代の女性のインターネット利用率はその半分の15%程度だった。そしてその大半が、ガラケーによる携帯メール・ユーザーという状況だったのだ。

 この当時、日本で急拡大していた「フェイスブック」のようなSNSを、パソコンの画面で、60~70代女性がどれほど利用するものなのか。

 このような不確実性が多い状況下で有効な新サービスの開発手法が、リーンスタートアップということになる。これは簡単に言えば、より少ない投資で、何度も実験を重ねながら、ビジネスモデルを順次確立していくという手法である。

 この手法では、「MVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)」と呼ばれる最小限度の試作品で、疑問や懸念を検証することが推奨されている。

 いきクルの場合、最初の懸念点は「パソコンのSNSに参加するシニア女性はほとんどいないのではないか?」というものであった。

 このようなリスクの有無を検証するための最も手軽な方法は何か。

 当時、事業開発のプロジェクトを直接率いていた宮澤社長が行ったことは、雑誌いきいき上に「フェイスブックで読者同士が交流するモニターを100名募集します」という告知を掲載することだった。

 つまり、新商品を開発する前に、今、世の中にあるフェイスブックというSNSを利用して、どれだけの読者が、それを利用するかを確認しようとしたのである。これがリーンスタートアップ手法における最小コストの試作品、MVPの典型例である。