嵐のファンが“熱心”なファンになる理由

 音楽エンタテイメント業界は大きく変貌している。音楽エンタテイメントビジネスに起きた変化をひとことで言えば、「ビジネス上の重要ポイントが、楽曲からファンとの関係性へシフトしている」ということになるようだ。

 マーケティングの専門家で音楽業界の変化に詳しい射場瞬さんは、人気グループ「嵐」を題材に、この変化について詳しく分析をしている。今回、この射場さんの話を詳しく聞くことができたので、音楽ビジネスに起きている変化のエッセンスをまとめてみたい。

 射場さんは米国の大学を卒業後、コルゲートパルモリーブ、クラフト、アメックスなどの米国企業の本社の消費者マーケティング部門でキャリアを積み、日本コカコーラ副社長を経て独立。現在は、マーケティングコンサルティング会社、IBAカンパニーの代表を務めている。

 消費者マーケティングのプロである射場さんは、ソーシャル時代の顧客マーケティングの事例として、嵐とファンとの関係性に注目している。

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 一般的によく言われる嵐のアイドルグループとしての特徴は、「5人は本当に仲がいい」いうことだ。その5人の存在に自分の感情を移入できるという点に、ファンが嵐にはまっていくポイントがあるという。

 「嵐のファンが“熱心”なファンになるケースとしてよくある状況を1つ挙げると、大変な現実に直面している時ですね。人間関係でうまくいかなかったりして精神的に疲れていたり、勉強や仕事で頑張らなくてはならない、そんな現実が背景にあります。

 現実から一時的に離れさせてくれる何か、現実を乗り越える元気をくれる何かを求めている時、たまたまテレビや雑誌などのメディアで嵐に触れる。5人の夢の世界に加わることで、ほっこりして癒やされ、現実の大変さを少し軽減できる。こうしたきっかけで、ファン活動に熱心になり、嵐が生活の大切な一部となっていくのです」と射場氏は語る。

 長年、嵐をウォッチしているとわかるのだそうだが、TVなどで細く見ていても、仲がいいことに疑いがわく場面がないという。仲の良さを確信できるから、ファンは嵐にはまっていくというのだ。

 ただ、マーケティング戦略の観点で重要なことは、この“仲の良さ”という顧客価値が完成されていくにあたっては、運営者側に意図的な打ち手が存在するということだ。

 「嵐のメンバーは5人ともそれぞれ絶大な人気を誇っていますが、実は2004年頃までは、個人のメディア露出が櫻井翔さんと松本潤さんの2人に偏っていました。言い換えると、他のジャニーズグループ同様、“グループ内格差”のあるグループだったのです。

 ところが、嵐の場合、2004年以降、他のメンバーのメディア露出を増やし、ドラマや映画などを通じて、認知度を上げていく運営者側の努力が功を奏します。他のメンバーもヒット作や人気番組に恵まれ、グループ内での人気格差が小さくなりました。

 この結果、『本当に仲が良い』というイメージが広く定着し、グループ内格差のなくなってきた2008年頃から、嵐の本格的なブレークが始まったのです」(射場氏)

 このようにして、嵐のファンたちがさらにはまりこむ仕掛けが出来上がってきたという。