こんにちは、西友の富永です。

 「コンピュータは“ヒト”になれるか」をテーマにした、日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所の森本典繁所長との対談。前編に続き、今回の後編では「コンピュータはコンセプトを作れるか」「人間にとってコンピュータの究極の姿とは」といった核心的な疑問をぶつけてみました。

コンピュータと人で「ゲームに強い」は同じ意味か?

富永: 経験の蓄積から生まれてくる人間のヒューリスティクス(経験則)は、アルゴリズムの蓄積を脳が一瞬で処理しているみたいな感覚があるじゃないですか。そういうことっていずれコンピュータでもできるようになりますか。

森本典繁所長(以下、森本): できると思います。このエージェントも、この家族はこういうものが好きだとか、毎週水曜日はいつも人数が3人になっているとか、そういう積み重なるデータを学習し、過去の経験則に基づいた提案などができるようになります。

 一方、人工知能「Watson」(ワトソン)はまず問われている内容を解析して何を質問されているかを判断します。

 あらかじめ学習して蓄えられた大量の情報源から解答となりそうな語句、特に質問と関連が深い語句を推定し、解答の候補として数百個ほど列挙します。それらが質問文の解答としてふさわしいかどうかを調べるために、文書や辞書の中からその「根拠」となる記述を探し、解答候補の中から確信度の高いものを解答として導き出します。

 コンピュータは人間と異なり“直感”を持っていないので、質問に対する解答が正しいと判定できる根拠が文書の中にどれだけ見つかったかを計算し、自信の度合いを数値化します。クイズ番組ではこの一連の作業を数秒以内に実行し、Watsonは質問に答えていたわけです。

 Watsonはこうした「機械学習」を積み重ねていくことによってどんどん知識を得てダイナミックに学習し、その解答精度を高めることができます。

富永: チェスとか将棋が強いコンピュータというのは、人間が強いのと意味は同じなんですか。

森本: ああ、それは難しい質問ですね。近年、膨大な量の将棋の棋譜がデータとして公開されていることは、コンピュータにとって大きな意味を持っています。意味づけがなされているデータが大量にあれば、コンピュータはそれを学習することによってより精度の高い指し手で対決できます。

富永: ビッグデータ的に考えると、「この局面ではこう指したら勝つ確率が高い」というデータを蓄積していけば勝てるのかなと。でも棋士とかプロのチェス指しの考え方ってたぶんそうじゃないですよね。駒の配置や勝負の流れを大局的に見ている。それこそ“直感”。人間と同じレベルでコンピュータがチェスを指すというのは、本当はそのレベルの話だと思うんです。

森本: 人間でも感覚的に将棋を指している天才肌の方もいれば、並はずれた記憶力でたくさんの棋譜を覚えて「こういうパターンだったら何とか名人のいつの棋譜が近い」などと判断をして指している方もいらっしゃると思います。コンピュータはどちらかというと後者に近いかもしれません。直感力はありませんから。

日本IBM東京基礎研究所の森本典繁(もりもとのりしげ)所長。1987年日本IBM入社。95年米マサチューセッツ工科大学のEECS(電子工学およびコンピュータ・サイエンス)にて修士号を取得。96年に日本IBM東京基礎研究所へ。2006年IBM Researchの責任者の補佐としてIBMワトソン研究所赴任。2009年5月より現職
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