食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 今回はカロリー制限がもたらす影響について。

University of Wisconsin-Madison News「Monkey caloric restriction study shows big benefit; contradicts earlier study」
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 カロリー制限と聞くと、とかくダイエットの話になりがちですが、米国では今、寿命との関係が改めて議論されています。

 1930年代、米国コーネル大学の研究者らが「カロリー制限によってラットの寿命が約40%も延びた」と報告しました。これを機に、昆虫やマウス、犬などほかの動物でも、カロリー制限が寿命延長に効果があると報告されていきました。

 となると、次は当然、人間の寿命に影響するかどうかが問われるようになります。

 この疑問に答えるような研究──人間に近い動物であるサルを使い、カロリー制限が寿命や健康に与える影響の調査──を、ほぼ同時期に2つの施設が始めました。

食事制限で寿命は延びるのか、論争勃発

 1つは米国立老化研究所(National Institute on Aging :NIA)が1987年に始めた研究、もう1つは米ウィスコンシン国立霊長類研究センター(Wisconsin National Primate Research Center:WNPRC)が1989年から続けている研究です。

 WNPRCの研究成果は2009年、米Science(サイエンス)誌に掲載されました。報告によると、研究チームは、20年間にわたり、大人(7~14歳)のアカゲザルの1グループに、普通食よりカロリーが30%低い食事を与え、カロリー制限のないグループと比較。結果、カロリー制限をしたサルは、がん、糖尿病、心臓病などの発症が少なく、見た目も若々しく、寿命が延びたことが分かったのです。これにより、小動物だけではなく霊長類においても、「カロリー制限で寿命が延びること」が初めて証明されました。

 そしてこの報告以降、カロリー制限によって、老化が遅くなり、健康的に長生きができるという考えが広まりました。



 ところが、これを覆すようなNIAのレポートが2012年、英Nature(ネイチャー)誌に掲載されます。NIAでもやはり20年以上、アカゲザルに30%のカロリー制限を行った研究を行いました。驚いたことに「カロリー制限のないグループのサルと、中年期およびそれ以降からカロリー制限を始めたサルとでは、寿命が同じだった」という結果が出ていたのです。カロリー制限を始めたサルに、多少の健康状態の改善がありましたが、いずれにしても個体差が大きく、全年齢で総じて見れば、WNPRCの報告にあるような劇的な変化は認められなかったのです。



 さらにこれに対してWNPRCの研究グループが、2014年4月1日、オンライン学術誌の英Nature Communicationsで、25年間のアカゲザルの食事制限研究結果を発表しました。

 これによるとカロリー制限しなかったサルは、30%のカロリー制限をしたサルに比べて、病気のリスクは2.9倍、死亡のリスクが3倍増加するとし、WNPRCの研究者らは、NIAの研究におけるカロリー制限のないサルは、実際には食事制限をされていたと指摘しています。このことを裏付けるように、NIAが研究対象としたカロリー制限をしなかったサルの体重は、WNPRCが研究対象としていたサルより軽かったのです。



WNPRCとNIA、なぜ結果に違いが出たのか

 みなさんは、WNPRCとNIA、どちらの結果を信じますか?

 実はこの2つの実験には、大きな違いがあるのです。

 それが、サルの餌の内容と食べ方です。

 NIAのサルは、かなり質が良い、グルメな餌を与えられていました。一方、WNPRCのサルはNIAのサルの餌に比べると、ファストフードのような餌が与えられていました。さらに両施設のサルには、遺伝子的な背景の違いもあることが分かっています。

 ここからはサルの食事の内容を、栄養面からみて、検証してみましょう。