ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析してきた伊藤忠ファッションシステム ifs未来研究所所長の川島蓉子氏がトレンドをけん引する企業トップを直撃。一流の経営者にとって「デザイン」の役割とは? “経営とデザインの未来”を探る。

 豪快な手振り身振りで勢いよく紡ぎ出される言葉の数々――武中雅人さんとお話ししていると、いつも面白さに引き込まれてしまう。松竹の常務という肩書の重さも手伝ってのことだろう。

 最初にお会いしたときは「ちょっといかつくて怖そう」と思ったのだが、すぐユーモアにほだされた。失礼千万を承知で言うならば、武中さんのキャラクターは、小学校のクラスに必ずひとりはいた“わんぱく坊主”の人気者と重なって見える。親分肌でワンマンっぽい一面と、シャイで気配りが行き届く一面を併せ持っている。

 武中さんは何より歌舞伎を愛している。若いころからの大ファンで、大学では歌舞伎研究会に所属して自ら演じていた。派手な目鼻立ちの武中さんがどんな歌舞伎役者を演じていたか、想像を泳がせてみるのもまた楽しい。

 就職したのは、その大好きな歌舞伎をやっている松竹。3年間は歌舞伎座で切符切りや接客の仕事に就いた。「劇場に入っていくときのお客様の顔つきと、歌舞伎を見て劇場を後にするときのお客様の顔つきは明らかに違う」と感じ入った。「お客様が充実した表情を浮かべているのを目の当たりにし、自分の幸せが実感できた」という。

 その後、若年層にも歌舞伎の面白さを伝える工夫を重ねた。3階席を1000円という破格の値段で提供する企画や、雑誌「ぴあ」とのタイアップで「歌舞伎ワンダーランド」というムック本を作るなど、伝統ある歌舞伎座という場で斬新な企画を発案・実施して話題を集めた。

 そして、2013年4月2日にお目見えした新しい歌舞伎座の全体の開発担当者という大役を担った。歌舞伎座本体はもとより、後背にある高層ビルも含めた再開発プロジェクトを統括したのだ。長い歴史を持つ歌舞伎座の歴史と伝統を守りながら、これからの時代にフィットする要素を加味していく。武中さんの本領が発揮されたプロジェクトといえる。

 お客様に新しいモノやコトを提供するアイデアを散りばめていく――完成した新しい歌舞伎座には武中さんの仕掛けた試みが盛り込まれている。武中さんがこれから歌舞伎座をどこに向かわせようとしているのか、話を伺った。

松竹の武中雅人常務取締役事業本部長(事業部門・不動産部門担当)は1957年生まれ。1980年学習院大学文学部史学科卒業後、松竹入社。すぐに歌舞伎座に配属、故永山会長(当時副社長)の薫陶を受け「切符のもぎり」から興行のいろはを学ぶ。1997年松竹・新橋演舞場支配人、新橋演舞場(株)取締役。2006年松竹本社演劇本部演劇営業部長、2007年取締役事業本部事業部門ならびに不動産部門担当、歌舞伎座開発準備室長に任命される。2011 年事業本部長を委嘱(現任)。2012年常務取締役に就任(現任)。2013年2月、歌舞伎座タワーとして第五期歌舞伎座を竣工させる(写真/竹井俊晴)
[画像のクリックで拡大表示]