すべては、「笑って死ぬ」ために

猿之助: ただ、「歌舞伎のみどころを教えてください」みたいな質問には答えないようにしています。「ご自分で観て、調べてください」と言います。日本人に限らず、現代人はすぐに答えを求める。なんでもネットで見てすっかり知ったような気分になったり、解説を読んでから絵画を見たり。そのほうが楽ですからね。けれど芸術に関しては、それではダメだと思うんです。何でも言葉で説明できるというものでもないし、解説を読んでから絵を見ても、決まった見方しかできない。見た後で解説を読んだほうが、「ああ、そういう見方もあった」と深まるというものです。人間は楽な方、楽な方へいきたがるけれど、僕は歌舞伎を初めて見る人たちには「楽しないでください」と言いたい。まずは先入観無しに観て、感じることを大事にしてほしいです。そのほうが僕らもずっと嬉しい。その結果「歌舞伎はつまらない」と思われたら、それはそれでいいんです。世の中には娯楽はいっぱいあるわけだから、好みに応じて取捨選択していけばいいんです。

――では最後に。6月の襲名口上では「誰も見たことがないような『市川猿之助』を目指したい」とおっしゃっていましたが、4代目猿之助をどう生きてゆこうと思っていますか?

猿之助: 「笑って死にたい」、ただそれだけ。自分が後悔しないように生きたいです。「すべては他人のために」なんて、聖人君子じゃない凡夫には言えません(笑)。最後に笑って死ぬために、一日一日を懸命に生きることに尽きます。

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(取材・文/松島まり乃、写真/石井明和、スタイリスト/勝見宜人)