古株「テキサス・セレクト」、新顔「フリー」が模索する未来市場
市場規模はほぼゼロ、消費者の関心も薄い。ノンアルビールをとりまく米国の環境は厳しいが、そんな中で今後に注目したいのが、テキサス州にあるリッチランド・ベバレージ・アソシエーツ社、そして日本のキリンビールだ。
リッチランド社は、「テキサス・セレクト」というノンアルビールを、大手アンハイザー・ブッシュやミラー・ブルーワリング社に先駆け1980年代前半から販売している。このビールはもともと、1970年代後半に宗教的理由で酒類が販売されていないサウジアラビアに石油パイプを売り込んだ創業者が、現地で働く米国人労働者のために作ったものだ。1982年には日本でも販売を開始し、今日まで安定した人気を保っている。米国では現在ほぼテキサス州内のみでの販売に落ち着いているが、今後アンハイザー・ブッシュ社の販売網にのって流通させる予定だそうだ。
キリンビールは、海外子会社であるキリンブルワリーオブアメリカ社から昨年10月、ノンアルビール「フリー」の米国販売を始めた。 今のところ、ロサンゼルス、サンフランシスコなどカリフォルニア州主要都市のほか、ニューヨークとニュージャージーエリア、ラスベガス、フェニックスの日本料理店やアジア系スーパーで販売している。
古株で日本のノンアル市場の変遷を見てきた米国メーカーと、日本の老舗だが米国のノンアル市場では新顔の日本の老舗メーカー。立場は違うが、話を聞いてみると両社の視点は意外に共通していた。
「価格面で清涼飲料との競争は非常に厳しいですし、販売量も大手2社と比べれば今はないに等しいと言えます。しかし私たちのビールは、ビールの味だけを真似たドリンクや砂糖がたくさん入ったソーダとは違います。モルト、麦、ホップと原料はどれもナチュラルで味はオーセンティックなビールそのもの。カロリーも低い。ハイエンドなものを好み、健康を気にするようになる30代以降がターゲットです」(マーサ・ゼルザー リッチランド・ベバレージ社長)。
「『フリー』は日本から輸入しているので、どうしても価格が高くなり清涼飲料との競争は厳しい。また米国のノンアル市場は小さく、売れる量も多くないことはわかっていました。しかし、米国のビール市場には長期にわたって革命的に新しい商品が登場していない。だからあえて新しくユニークな商品を持ってきたんです。日本文化に関心があるようなハイエンドなものを好む人、ビールの味が好きな人がターゲットです」(ランディ比嘉 キリンアメリカ社長)。
清涼飲料との競争が厳しいこと、市場がないこと、消費者からの関心が薄いこと。どれも最初からわかっている。しかし、両者ともに、だからこそこれから消費創造の可能性があると読んでいる。問題は、こうしたメーカーの“ヤル気”を受け止められる下地が米国の消費者側で創られるかどうか……。
「でも、20年前は水にお金を払うなんて米国人は考えたこともありませんでしたよ。消費者の嗜好は変わりますし、そうあってほしいです」とゼルザー氏。少なくともこれまでは、甘いソーダより値段の高いノンアルビールには米国人の目は向かなかった。果たしてメーカーの期待は通じるのだろうか。
(文・写真/温井 ちまき=トレンド・ジャーナリスト)
米国トレンド・ジャーナリスト
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