米国ノンアルビールの「寒すぎる」現状

筆者行きつけの酒屋で買えるノンアルビール。記事執筆のため、ほかの酒屋でもノンアルビールを購入してみたが、ワシントンDC近郊ではこの品ぞろえが普通であるようだ。左から、「Buckler」(オランダ)、「Kaliber」(イギリス)、「Bitburger Warfteiner」、「Erdinger」、「Clausthaler」、「Beck's」、「St. Pauli N.A.」(以上ドイツ)。このほかに、国産の「O'douls」があるときもある
[画像のクリックで拡大表示]

 まずは米国におけるノンアルビールの置かれた現状について考察する。米国ではアルコール分0.5%以下の飲料をノンアルコールと定義している(日本ではおおむね1%未満 ※注1)。これは1919年の国家禁酒法で設定された値だ。ブルーワリーの多くが生き残りのためにノンアルビールを生産し、この種の飲料が禁酒法下の米国社会で普及した。同法は33年に廃止されたが、ノンアルビールは時代を超えて今も綿々と販売され続けている。

 しかし、米国で普通に生活していると、ノンアルビールを見かけることはほとんどないし、あってもその種類が限られている。

 例えば、ワシントンDCにある筆者行きつけの酒屋では、ノンアルビールは一番隅に追いやられている。この店は世界各国のクラフトビールを何百種類もそろえる老舗なのだが、ノンアルビールは8種類だけ。しかも全部がヨーロッパ製の輸入品だ。「米国製のはないの?」と聞いたら、店員が「O'douls(オドォールズ/アンハイザー・ブッシュ社製品)なら奥にある。もともと数が出ないし、ヨーロッパのものがあれば充分だから米国産はこれしかない」と言って、ウォークイン冷蔵庫の中をしばらく探した後、ようやく一瓶だけ出してきた。

 また、アルコールが飲めない家人とクラブやバーに一緒に行きノンアルビールを頼むと、出てくるのは判を押したようにO'doulsだ。アルコールの入ったビールはブランドチョイスができるのに、ノンアルものには選択肢がない。さらに、米国でポピュラーなホームパーティーにもこれまでいく度となく行ったが、ノンアルビール自体を供されたことは一度もないし自分も出したことがない。

 こんな状態であるから、米国のノンアルビールの市場は言うまでもなく極小だ。ビール業界団体のビールインスティテュートによると、 米国のノンアルビール市場は全体の1%にも満たない。しかも、これまでにノンアルビールについてのきちんとした調査はされたことがないという。

 キリン食生活文化研究所が昨年発表したレポート(※注2)によると、2010年統計で米国は中国に次ぎ世界第2のビール生産国である(日本は世界7位)。国民一人当たりでは20ガロン(約76L)ものビールを飲んでいる(※注3)ビール大好きのお国柄だ。一方で、飲酒運転は厳しく制裁されアルコール依存症の危険についての認知度は高い。しかも美容や健康に気を使う人々が多くおり、ノンアルビールはビールの理想的な代替品のはずだ。

 ではどうして、米国でノンアルビールは飲まれないのだろう?