新たに産業化して定着させるには課題も

お持ち帰りCDの制作に用いられたデュプリケーター(ディスク複製機)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただし、お持ち帰りCDをうまく産業化するためには課題も多くあります。

 今回の工程をみると、まず、その場で録音してパッケージを作るためには、マルチマイクで収録してミキシングするスタジオが必要です。L・Rのステレオ音声を超特急でマスタリングし、まず1枚のマスターCDを作ります。ここで使うのは太陽誘電の最高級マスター用CD-R「オーディオフォーマスター」です。このマスターを基にデュプリケーターを作って複製します。そして最後にチェックをし、あらかじめ作っておいたパッケージに入れてできあがるという流れです。

 「お持ち帰りCD」をつくるためには、少なくとも編集するスタジオとそれをダビングする場所の2つが必要です。NHKホールではリハーサル室にデュプリケーターを置いてもらったそうですが、府中の森芸術劇場では場所がなく、廊下に置いた複製しなければならず、いろいろ大変だったと聞いています。

リハーサル室で複製している様子
[画像のクリックで拡大表示]
複製が完了すると、あらかじめ作っておいたパッケージに封入する
[画像のクリックで拡大表示]

 ここですごいのは、今回のお持ち帰りCDはマスターCD-Rから子どもを作る段階のものを売っていることです。マスターを複製した子どもの世代ですから、パッケージメディアとして考え得る最高の音質なのです。マスターを複製したものをさらに複製する「孫世代」になると、デジタルでも音質が落ちてしまうため、マスターから直接複製しているのです。

 そのため、デュプリケーターの台数だけマスターCD-Rを作っており、その時間も必要になります。そう考えると大変ですが、ふつーのCDだけではかなり閉塞状態が続いています。そんな中で「ユーザーが本当にほしかったものを作る」というのが、このお持ち帰りCDの成功が教えることだと思います。

 スタート・ラボはCDを開発したソニーの技術者であった「CDの父」中島平太郎さんが作った会社です。1980年代にその中島さんに聞いた話では、その場でCDを作ってそのまま持って帰ってもらうという夢があるとおっしゃっていました。

 当時はまだ再生専用のCD-ROMしかなく、CD-Rが出る前でした。CDに書き込みができて、本当に欲しいものがその場で持ち帰れるというものだという中島さんの夢が、ようやく実現したのだなと思います。

 これはCDの新しい展開というか、音楽産業の新しい展開になりますね。お持ち帰りCDに直前の感動が「音」として中に入っているだけでなく、買った人に後からサービスすることも可能です。例えば写真集がダウンロードできるとかですね。

 海外ではあまり規制がないのか、コンサートで撮影している人をよく見かけますが、日本のコンサートは撮影禁止です。写真を撮りたいというのは、それも感動の一つだからです。しかし撮れないのであれば、後からダウンロードできるという特典は魅力的でしょう。

 アイデアはほかにもいろいろ考えられます。今回のお持ち帰りCDはステレオ収録ですが、5.1chでドルビーTrueHDなどのロスレス収録するというのも一つの手でしょう。映像を撮っておいて、編集したものを後で配るという方法もあります。

 演奏を多角的に活用して、活用すればするほど思い出もディープになる。それをビジネスにすればさまざまな収益につながりますし、ユーザーにしてみるとマルチメディアを駆使してもう一回ライブを追体験できます。単に音を聞くというだけでない、パッケージを買うだけでない楽しみがお持ち帰りCDにあるのではないかと大いに注目しています。