本店はサンクトガレンにあるヴェゲリン銀行の、こちらはチューリッヒ支店。アメリカで起訴されたのはこの支店勤務の行員だった
[画像のクリックで拡大表示]

 失業率は先進国中、ほぼ最低(2.9%、2011年11月)をキープし続けているものの、スイスが世界不況の波からまったく影響を受けていないということはもちろんない。その大きな要因の一つは、すでにこの連載でも触れたスイスフラン高による輸出産業、そして国内の物価高だが、加えてもう一つ、スイスという国ならではのアキレス腱が、このところやや疼きを増している。

老舗プライベートバンク、ヴェゲリンの“事件”とその波紋

 スイス最古のプライベートバンク「ヴェゲリン」(創業1741年)が、大手のライファイゼン銀行に事実上、身売りをしたというニュースがスイス全土を駆け巡ったのは2012年1月28日のこと。唯一、手元に残した部門は「アメリカのクライアントを扱うセクション」で、ヴェゲリンの8人のパートナーのうち、ライファンゼンに移ったのは2人。残りの6人は、この残された部門の「損害の後処理」に邁進する、とのことだった。

 発端は今年のはじめ、ニューヨークでヴェゲリンの従業員3人がアメリカ人顧客の脱税を手助けしたかどで起訴された事件。それからわずか3週間後、老舗の名門の看板がこのような形であっけなく降りてしまったとあって、スイス政財界を揺るがすニュースとなったのだ。

 スイス最大大手のUBS銀行がアメリカの顧客へ「脱税指南」をしていた疑いが発覚し、アメリカ当局からスイス政府に大きな圧力がかけられたのが2008年。これを受けてUBSがアメリカ資産家のオフショア口座1万9000件を閉鎖したことは、まだ記憶に新しいが、このときUBS離れしたアメリカ顧客の多くは、別の銀行に口座を開設。ヴェゲリンもその一つだったわけだ。

 今回のヴェゲリン事件は、だが、一銀行の売却というレベルを大きく超え、スイスという国の経済、産業のあり方そのものにクエスチョンマークを突きつける事態であるとする見方が大きい。なにしろプライベートバンクといえば、国内経済のほぼ10%を占めるスイスを代表する重要な産業。それが国外からの圧力をきっかけに、このような形であっさりと崩壊へと突き進んでしまったことは、産業全体についての数々の問題を示唆しているからだ。