カーナビ業界における破壊的イノベーションとは

 毎年この時期に、ある雑誌の「10年後に生き残る企業」という特集に、評者として参加させていただいている。私は今年の検討で、カーナビ業界各社の評価を全て、「ネガティブ」(10年後に生き残るのは難しい)に変更させていただいた。これから大規模な破壊的イノベーションが業界を襲うので、生き残りが難しくなるだろうというのが、私の見立てである。

 その特集では詳細について述べる機会がなかったので、今回、このコラムでカーナビ業界に何が起ころうとしているのかをまとめさせていただこうと思う。

 破壊的イノベーションというのは、1990年代に、ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』という著書の中で定義した比較的新しい経営用語である。

 大型コンピューターにとってのパソコンや、銀塩カメラにとってのデジカメのように、従来主流だった技術ないしは方式の優位を無効化する新たなイノベーション商品・サービスの出現を指す。

 カーナビの世界においては、GPSを搭載したスマートフォンが、破壊的イノベーションの使者である。破壊的イノベーションはゆっくりと確実に、それまで高収益だった業界を破壊していく。それがどのように起きるのかということと、起きる過程でその現象がどのように見えるのかということを、クリステンセンの理論に沿って整理してみよう。

 当初、破壊的イノベーションは、「たいしたものではない製品」として市場に登場する。現時点のスマホのGPSカーナビアプリを見れば、カーナビ各社の幹部は確実に、「わが社の製品の方が優れている」と考えるはずだ。

 デジカメも、出現当時は同じように捉えられていた。現在のGPS携帯版カーナビの状況をデジカメでたとえれば、世の中の認知度的にも性能的にも、1995年頃の状況に近いのではないだろうか。当時のデジカメは、画素数で言えば、38万画素程度。どちらかと言えば、カメラ売り場よりもおもちゃ売り場で売られる商品だった。何よりも当時最大のアプリケーションは、銀塩カメラとまったく競合しない市場、つまりゲームセンターに置かれたプリクラであった。

 90年代初めにフィルムメーカーの幹部に、「デジカメをどう思うか」と訊ねる機会があったが、その時の答えは、「あんな製品はたいしたことない」だった。それが95年頃になると「このまま進歩していくとまずいな」といった空気に変わる。ただ空気は変わるが、それがまだ本格的な危機感になるのは先の話である。

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 フィルム業界全体で、本格的にデジカメの出現が危機感を持って語られるようになるのは、私の手元の記録を見る限りは2000年頃。画素数で言うと、100万画素のデジカメが主流になり始めた時期である。インターネットブームとあいまって、「これは本格的にDPEの世界が破壊されるぞ」という危機感がようやくフィルム業界全体から感じられるようになった。

 その後はみなさんもご存じの通り。2000年頃には、まだ「デジカメ持っている?」くらいの状況だったものが、2005年には、デジカメを持っているのが当たり前で、銀塩フィルムのカメラを使っている人の方が時代遅れになった。さらに2010年頃には、撮影はカメラではなく携帯電話で行うことが主流になる。そして先ごろ、世界のフィルム最大手だったイーストマン・コダック社が連邦破産法の適用を申請したと報じられたばかりである。

 歴史を2012年時点で振り返れば、「そりゃ、銀塩フィルムのカメラがなくなるのは当たり前だろうな」ということになるのだが、ここで重要なのは、1995年頃の視点で眺めると、「38万画素のデジカメなんて劣った製品で、そんなものにカメラ業界が完全に置き換わるわけがない」という空気が業界では主流だということである。

 そして、今回取り上げるカーナビで言うと、事情は1995年頃のカメラ業界と似た状況にあるのである。