NHN Japan スマートフォンゲーム制作室 室長の馬場一明氏。「自分はいつも焼肉屋に行くと食べ過ぎてしまう。自分の食べる量も分からないのに、他人の作業量が分かるわけがないので、作業量の見積もりは不要」とのユーモアあふれる例えに会場は笑いにつつまれるシーンも
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 12月14日、スマホ関連総合カンファレンス「スマートフォン&タブレット2011 冬」(ベルサール八重洲)の「ゲーム開発」セッションでは、NHN Japan スマートフォンゲーム制作室 室長の馬場一明氏が登壇した。『ダーツ』や『フォトジグソー』など、直感的に遊べるアプリ「TEIBAN GAME」をいかにクオリティーを維持しながら、短期間で多数開発し、ヒットに結び付けたか。その舞台裏と独自の組織論を披露した。

 これまでPCオンラインゲームを手がけてきた馬場氏が、スマホゲームアプリの開発を命じられたのは、東日本大震災直後の今年3月。出された課題は「4月から開発に着手し、7月末までに70タイトルそろえる」「開発スタッフは既に決まっている人間で進める」「8月にTVCMなど大々的なPRを行うため遅延は許されない」の3点だったそうだ。

 そこで馬場氏が実施したのは自身が率いる開発チームで、以下11の事柄を「やめる」ことにした。「やめること」が、どうして短期開発に必要だったのか、そのメリットと併せて解説した。

1.「組織の細分化、階層化をやめる」
マネジャーが増えるということは、ゲームの作り手が一人減るということ。優秀な人間がマネジャーになるほど、アプリの制作力は低下する。

2.「職種別の目標設定をやめる」
プログラマー、企画など職種別に目標を設定すると、自分の担当部分しか見なくなる。評価はまずそのアプリの完成度に注目。その中で自分がどれだけ貢献したかというポイントに変更した。

3.「作業量の見積もりをやめる」
作業する本人が3日間徹夜で仕上げるつもりでも、上司はバッファを見て一週間と報告してくることが多い。どんどん仕事を依頼し、本人が「ここが限界」と自己申告すれば、そこまでにする「ギブアップ申告制」に変更。

4.「スケジュール管理をやめる」
スケジュールありきだと、だれもがクオリティーよりスケジュールを優先してしまう。スケジュール表をまとめただけで仕事をした気になってしまうのも問題。

5.「データ分析をやめる」
過去のデータを分析しても新しいアプリは生まれない。消去法でアプリを作成すると、センスのある人間の意見がつぶされてしまう。

6.「お客様のご意見どおりのアプリ変更はやめる」
お客様のご意見は、あくまでもアプリに問題があるかどうかのバロメーターとする。

7.「メンバーの教育はやめる」
優秀な人間を教育担当にするほどチームの制作力は低下する。

8.「承認はやめる」
「○○さんがいいと言ったので」という甘えを断ち切る。常に危機感のある状況にする。

9.「アドバイス/助け合いはやめる」
分かっていない人間に理解させるより、分かっている人間が作業したほうが早い。問題点は「ここがよくない」とストレートに事実だけを伝える。

10.「会議をやめる」
時間の無駄。制作チーム同士の席を近くするだけで問題ない。

11.「報告書をやめる」
自分自身がプロジェクトの進行具合を知りたい担当者のところに、知りたいタイミングで歩いていけばいいだけ。

 ある意味、日本企業従来の仕事の進め方をくつがえす、大胆な11の決断だった。しかし、その結果は歴然。約70本の「TEIBAN GAME」の力で、スマートフォン版「ハンゲーム」アプリのダウンロード数は11月に1000万ダウンロードを突破してしまった。短期間の開発ながら、ユーザーに訴求するクオリティーも伴っていることを、数字で証明したわけだ。

 「なぜこうした改革を思いついたのか?」という来場者からの質問に馬場氏は「以前に所属していたPCオンラインゲームの部署では、上記11項目をすべて実施していて、ヒットがなかなか生まれなかったため、すべて変更してみた」とキッパリと回答。その説得力のある講演内容に、来場者もみな納得の表情だった。

(文/伊藤 哲郎)