古い家の価値を引き出す

 今回話をうかがうのは、建築家の馬場正尊さん(Open A)だ。8年前に馬場さんが中心となってスタートした「東京R不動産」は、新しい視点で不動産を発見するというコンセプトで、仲介も手がけるウェブサービスとして注目を集めてきた。いわゆる「リノベーション物件」をメインに扱い、今では「東京」だけでなく、「房総」「金沢」「神戸」「福岡」などとエリアを拡大している。

 気になるのが「リノベーション」という言葉だ。私の記憶では2000年代の半ばごろからなんとなく耳にするようになり、建築用語とはいえ、今やかなりポピュラーな言葉になっている。「リノベーション? あ、流行りの……」という印象だ。昨今のリノベーションブームにはどういった背景があるのだろう。

 国土交通省の調べによると、2009年は42年ぶりに新設住宅着工戸数が78万8410戸に激減した記録的な年だった(2008年は約103万戸。ピークの1970年代前半は180万戸を超える年もあった)。その後、2010年は約81万戸に持ち直したが、世帯数の減少などでかつての水準に戻ることはもうないのでは? という見方も多い。

 つまり、日本の住宅市場はすでに飽和の時代を迎えており、景気の先行きも不透明な状況もあってか、なにがなんでも新築にこだわるのではなく、古い物件を自分なりに仕立て直してリーズナブルに住むという選択をする人も増えているということだろう。それはサステナブルを志向する時代の必然でもある。

 しかし、リノベーションにはいわゆるリフォームともまた違う魅力があるようだ。リノベーションは単なる家の改修ではなく、住居の新しい価値を引き出してくることだというが、イメージの湧きにくい方は東京R不動産のウェブサイトを見るのがわかりやすい。「なるほど、こういう物件のことか」と腑に落ちるのではないだろうか。

 東京R不動産のサイトは、一見不動産仲介らしからぬ佇まいだ。シンプルな作りで「レトロな味わい」「眺望good」といった独特の物件カテゴライズが印象的。そこには「こんな家があったのか」と思うようなこだわりの物件が多数紹介されている。それぞれの物件の家賃や間取りなどの情報はもちろん、その家にまつわるエピソードやチャームポイントを解説するレコメンド記事が付いているところも特色である。

 馬場さんはどういう経緯で「東京R不動産」を立ち上げることになったのか。そのあたりからお話をうかがおう。

馬場正尊(ばば まさたか)
Open A ltd.代表取締役。1968年佐賀県生まれ、早稲田大学理工学部建築学科大学院修了。1994年より博報堂にて「世界都市博覧会」「東京モーターショー」などの大型事業 の計画・実施に携わる。1998年早稲田大学理工学部建築学科博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年Open A Ltd.設立。現在、設計活動、都市計画、執筆などを行う。著書に『R THE TRANSFORMERS ~都市をリサイクル~』、『東京R計画』。設計にレゾナンスオフィスのインテリア、東日本橋のコンバージョン集合住宅、トヨタ産業技術館エピローグなどがある(写真/稲垣 純也)