「マウスじゃねえな」と気付いたところが恐ろしい

飯野賢治氏。ゲームクリエイターとして「Dの食卓」「エネミー・ゼロ」などのヒット作を次々と手がけ、現在はさまざまな企業のブランディングやマーケティング、ユーザーインターフェイスの開発などに携わっている。フロムイエロートゥオレンジ代表。(写真/稲垣純也)

飯野:僕がよく言っているのは、アップルは本当の意味での「パーソナルコンピューター」を作った会社だということ。パーソナルって、遊びでも仕事でもいいんですけど、やっぱり個人の“拡張器官”になって使う人がエンジョイできることが重要なんです。ファンクションが増えるたびに、インターフェイスも進化するみたいな。ファンクションだけじゃなくてエモーショナルな部分もそうだと思うんだけど、アップルってそういうことをやりながらどんどん築いていった会社だと思うんですよね。

富永:じゃあ、Macが出てくるまではパーソナルコンピューターはなかったと。

飯野:なかったと思う。それまではツール、ただの道具。

富永:道具だったパーソナルコンピューターを一気にパーソナルコンピューターにした原動力というのは何だったんですかね。

飯野:これがたぶん答えに近いんですけど、アップルの新しいOS(「OS X Lion」)ってめちゃめちゃ「マルチタッチジェスチャー」なんですよ。

富永:マルチタッチジェスチャーって何でしたっけ。

飯野:ノートパソコンのパットを使って3本でぐっとやるとか、2本でやるとか。iPadなんかまさにそうじゃない、開くとかスクロールするとか。

 あれってやっぱりアップルがどこかで「待てよ、よく考えたら誰もマウス、使ってねえじゃん」って気づいたと思うんですね。世の中のほとんどがラップトップに変わったのに、GUI(グラフィカルユーザインターフェース)はデスクトップのままで、相変わらずモニターを見てマウスを動かしている。そこでジョブズが方向転換をしたと思うんです。どこまで戦略的かは別として、マルチタッチの方向をiPhoneやiPadで進めながら、そこのノウハウを全部持ってきて新しいOSを作って。

 デスクトップの環境のなかでマウスというツールを選択してここまで伸びてきて、今度は「マウスじゃねえな」というところに気が付いたアップルって恐ろしいなと思った。みんなマウスを使っていないのに、マウスを中心にしたユーザーインターフェースをいまだに使っている“アンバランスさ”というか、異常な状態。それに僕ですら気が付かなかったんですよね。

富永:Windows 7って、画面にタッチするインターフェース、付いていますよね。何でWindowsがそういうことをやっても、アップルがやったときのようなことは起きないんですかね。

飯野:それこそブランドのマーケティングがアップルは上手で、今回の新しいOSの紹介ビデオって、全部で何分あるか分からないですけど、最初からいきなり「マルチタッチジェスチャー」なんですよ。僕はそれこそびっくりして友達にメールを送ったんですけど、やっぱりアップルってすごいなと。僕だったら新しいOSの紹介のトップにインターフェースを持ってこられないなと。

富永:なるほど。

アップル最新OS「OS X Lion」の新機能「マルチタッチジェスチャー」はトラックパッド上で2本指で上に滑らせればWebページが下にスクロールするなど、指を動かす方向にコンテンツが移動。iPhoneやiPadのような直感的に操作感となっている(画像クリックで拡大)