メーンストリームの音楽市場が縮小を続ける中、存在感を強めているのが“ネット発”の音楽だ。特に音声合成ソフト「VOCALOID」を使った、いわゆる「ボカロ曲」に人気が集中している。クリプトン・フューチャー・メディアが「初音ミク」を発売した2007年8月末以降、ニコニコ動画のような動画サイトで人気に火が付き、中高生からコアなマニア層まで、いまだその人気は衰えを見せていない。

 コミックマーケットのような同人誌即売会やボーカロイド専門のイベント「THE VOC@LOiD M@STER」などでは、こうしたボカロ曲のCDが飛ぶように売れている。CDの体裁はカラーコピーのジャケットにCD-Rという手作り感満載のものから、奇麗に印刷しプレスした商業盤のようなものまで様々。クリエーター側も若いアマチュアから、プロの音楽シーンを経験したミュージシャンまで、多様な背景を持つ。

 一般流通に乗ったボカロ曲のCDがオリコンチャートに現れることは珍しくなくなり、今年になってインディーズ大手流通のダイキサウンドもボカロ曲の取り扱いを始めた。AmazonやiTunesなどで買える作品も多い。これはニコニコ動画という内輪向けのコンテンツや、同人市場という閉じた経済圏が、既存の音楽市場を侵食し始めた証でもある。

 イベントでの売り上げ統計が存在しないので、ボカロ曲の市場規模を正確に把握するのは難しいが、その一端をうかがえるのがカラオケでの人気だ。エクシングの通信カラオケ「JOYSOUND」では、2010年の年間ランキング上位10曲のうち半分がボカロ曲で占められた。これまでボカロ曲に消極的と見られていた第一興商の「DAM」にも、続々と入曲が始まっている。

(*印がボカロ曲) 1位 残酷な天使のテーゼ/高橋洋子 2位 キセキ/GReeeeN 3位 春夏秋冬/Hilcrhyme *4位 magnet/minato(流星P) feat.初音ミク、巡音ルカ 5位 ハナミズキ/一青窈 *6位 裏表ラバーズ/wowaka feat.初音ミク *7位 メルト/supercell *8位 炉心融解/iroha(sasaki) feat.鏡音リン 9位 Butterfly/木村カエラ *10位 ワールドイズマイン/supercell
「2010年 JOYSOUND 年間ランキング」

 だがボカロ曲のカラオケ利用には問題もある。それを生んだネット文化と、既存の音楽ビジネスとの折り合いの悪さだ。前述のようにカラオケでメジャーな楽曲以上に利用される実態があっても、これまでボカロ曲の作詞・作曲家には利益として還元されてこなかった。

 本来ならカラオケで使われた実績に応じて、作詞・作曲家は著作権使用料を得られるはずだ。著作権管理事業者である日本音楽著作権協会(JASRAC)が、カラオケ店や通信カラオケの配信業者から著作権料を徴収しており、各権利者に分配する仕組みを持っているからだ。しかし、それもJASRACに楽曲の権利を信託していればの話。JASRACに限らず、ボカロ曲のほとんどは著作権管理事業者に信託されてこなかった。