雨の撮影になりそうという憂鬱

 豊造一行は、今回のベースキャンプとなる「城山観光ホテル」を早朝4時半に発ち、造景の生まれ故郷である出水市へとレンタカーを飛ばした。天気予報は、曇りのち雨。めでたい連載の初回は、あいにく雨の日の撮影となりそうだった。

 「まぁ雨の日は、雨の日の撮影をしましょう。お天道様にはかないませんからっ!」と運転しながら何食わぬ顔の造景。それに対し、不安を隠せないまま助手席に座る佐々木(jinke)ディレクター。そんな彼を、少しでも落ち着かせようと「一応、雨の室内でも撮影できる準備は完璧にしてありますよ」と僕は続けた。それに無言でうなずくプロデューサーの“S”。この4人が“チーム「豊造」”、黄金のカルテット(?)だ。

 とは言ったものの、自由度の少ない室内の作品が連なるページを僕は連想して、気持ちはブルー。第1回こそはスカッと晴れて、気持ちいいという話に持って行きたい。この連載を颯爽(さっそう)とデビューさせるには、そんなページにしたいというのが僕の本心だ。顔で笑って、心は今にも泣きだしそうなぐらい曇っている。車内のjinkeディレクターもSプロデューサーも、全く同じ心境だったに違いない。

 それにしても、なぜか腹が減る。誰も、何も食べないというが、僕はコンビニエンスストアで買った菓子パンを力一杯ほおばった。だが、4つは食べ過ぎだった。かすかな胸焼けにちょっぴり後悔しながら、クルマのガラス越しに見える風景をながめていた。ホテルを出た時は、上空に星がちらほら見えたものの、出掛けにテレビで確認した早朝の天気予報はじきに雨になることを告げていた。

神々の演出が僕たちをドラマティックに出迎えてくれた

 かなり険しい峠を2つほど越え、およそ1時間半で着いた場所は、まだ日の昇らぬ東光山公園。薄暗い中、そこにそびえる4階建ての展望台に登った。公園の頭上には幸いなことに雲はなかった。しかも背後の、方角的には東に当たる空にも、全く雲は見えなかった。

 「天気予報、ハズレたんじゃない?」と造景の声が弾む。

 「とにかく朝のシーンだけでも撮れれば、それで御の字ですよ」とSプロデューサー。

 「そうだそうだ」と、まるで神のお告げをいただいたかのようにうなずくみんながおかしかった。メンバー全員の気持ちが通じたのか、少なくとも日の出シーンだけは見られそうだった。

造景さんが指差している方向が海。この雲じゃなあ。しかし、豊田さんは「何か」を狙っている?(画像クリックで拡大)

造景さん、方位を示すモニュメントに立つ。似合うなあ(画像クリックで拡大)

振り向いて東の空を見ると、晴れているじゃないですか!(画像クリックで拡大)

 青白さが増してきた目の前の風景は、右手奥側に長崎県の雲仙岳がその峰々だけを遠くかすませ、手前に上天草の大きな島、そして徐々に左へと目線を動かすと、連なるように天草諸島と八代海が広がっていた。周囲を島に囲まれた八代海は、この日、風も吹いていなかったせいか、まるで湖のように静まりかえっていた。さらに手前には獅子島があり、左手には山が連なるような感じで長島町の半島が突き出す。

 目線をさらに手前側に移すと、出水市の広大な平野が広がり、海側に近いところを九州新幹線の線路が白く細い線をなしていた。実に雄大な景色である。それが徐々に明るくなるにつれ、紫色から青白く、そして個々の持つ本来の色を取り戻しつつある。最高の夜明けシーンだった。

夜明けのシーンは実に神秘的。青白い光が幻想さをさらに演出してくれる
【撮影データ】
キヤノンEOS 7D、レンズ:キヤノンEF70-200mmF2.8L IS USM、シャッタースピード:1/50、絞り:f6.4、ホワイトバランス:4500K、ISO感度:400、三脚使用
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