麻倉怜士(あさくら・れいじ) デジタル・メディア評論家、日本画質学会副会長、津田塾大学講師(音楽)

 写真愛好家のみならず、若年層や主婦層などにまで浸透し始めたデジタル一眼レフカメラ。その中でもカメラ好きのデジタルメディア評論家の麻倉怜士氏が注目するのが、従来の一眼レフに比べてコンパクトなフォルムを実現した「マイクロフォーサーズ規格」採用モデルだ。麻倉氏は、1995年に実質的に世界初のデジタル・スチル・カメラ、カシオ計算機の「QV-10」をネットで大々的に紹介した経歴を持つ。

 麻倉氏が今回熱く押すのは、オリンパスの「OLYMPUS PEN E-P1/P2」と、パナソニック「LUMIX DMC-GF1」。「PEN E-P1/P2」は、銀塩一眼レフの往年の名機「OLYMPUS PENシリーズ」のフォルムを取り入れたレトロなデザインが特徴。「LUMIX GF1」は3色のカラーバリエーションで新たなユーザー層の取り込みを狙うなど、似て非なる印象を与える2モデルだ。

 これら2モデルのそれぞれの魅力は何なのか。どんな使い方が合っているのか。また、麻倉氏が愛用するハイエンドコンパクトデジカメ、キヤノン「PowerShot G11」も合わせて大いに語っていただこう。

アートな世界へ簡単に踏み込める「OLYMPUS PEN E-P1/P2」

 2009年はマイクロフォーサーズ規格の真価を発揮するコンパクトな“デジタル一眼”が発売されたというのが大きなトピックでしたね。キヤノンやニコンという長い歴史を持つメーカーと差別した新たな価値を付けたのは注目すべきです。大手メーカーの一眼はコンセプトも形もアナログの延長です。しかし、マイクロフォーサーズ陣営はそれとは全く違う価値観を持って製品作りをしているところが個人的に好きですね。

 マイクロフォーサーズ規格のコンパクトモデルとして最初に発売されたのがオリンパスの「OLYMPUS PEN E-P1」です。開発者に話を聞いたところ、(1959年に初代機が発売された)「OLYMPUS PENシリーズ」のフォルムが前提にあったわけではなく、だんだん検討が収れんして(1963年発売の)「PEN F」の形に近づいていったそうです。

オリンパスが2009年7月に発売した「OLYMPUS PEN E-P1」。光学ビューファインダーは別売だ(画像クリックで拡大)

 この「E-P1」や新モデルの「E-P2」は、コンパクトデジカメから上級なモデルに乗り換えたい人や、従来からのデジタル一眼レフユーザーを含めて、スタンダードになり得るフォルムだと思います。クラシカルだけどベーシックで、いかにもカメラという原点に立ち返ったデザイン美です。

オリンパスが2009年12月に発売した「OLYMPUS PEN E-P2」(ブラック)(画像クリックで拡大)

オリンパスが2009年12月に発売した「OLYMPUS PEN E-P2」(シルバー)(画像クリックで拡大)

 八王子にあるオリンパスの開発センターでE-P1を取材した日は、OLYMPUS PENシリーズ開発者の米谷美久(まいたによしひさ:オリンパス元常務)さんが亡くなった翌日でした。米谷さんには私が経済誌の記者をしていた時代に何度もインタビューしました。オリンパスのものづくりの精神、オリンパス的なものづくりのアプローチ、一眼レフを作る過程でなにが重要かなどを伺いました。当時からものづくりを取材していた私のバックボーンになった方でした。昨年、BSジャパンのカメラ番組で健在な姿を見ていただけに、驚きました。

 E-P1/P2の素晴らしさは、その米谷さんが開発した「PEN F」のDNAを受け継いだそのフォルムにあります。持った時に、もの自体が持つ価値観が形と感触で伝わってくるのですね。素材感やエッジの処理などを見ると、実にていねいに愛情を持って作られているというのが分かります。まさに“本物”を持ったときの充実感ですね。情報的でなく「情緒的」で、重さのバランスが優しさや麗しさを感じさせて気持ちいいです。

 それに加えて、絶品なのがシャッターの感触ですね。シャッターを切ると、カシャと機械の振動が官能的に伝わってきます。内部の幕の動き、音、振動感が官能的なのです。本格的な一眼レフもしっかりとした音がしますが、それは“メカが作る複合音”という感じです。でもPENの場合、生物が走って幕を落としている生体的な感じがします。それが気持ちよくて、ついついシャッターを押してしまうんですね。

 液晶ディスプレイが大きくて見やすいのも魅力です。コントラストがしっかりしているし、視認性がよくて判断しやすいのもいいところです。画質は素晴らしいです。階調がこまやかに出ていて、デジタル的な強調感ではなく、精細感があり、それでいてコントラストも乗っています。

 さらに楽しいのが「ポップアート」「ファンタジックフォーカス」「デイドリーム」といった6つのフィルター効果を用意する「アートフィルター」機能です。私が最もよく使うのがポップアートですね。写真というのは読んで字の通り「真を写す」ものですが、このポップアートフィルターを使うと「心を写す」という感じになります。

「6種類のフィルター効果を使うと、アートの世界に簡単に踏み込めるので楽しいです」(麻倉氏)(画像クリックで拡大)

 目の前の景色を細大漏らさずリアルに記録するのが「写真」です。しかし「ポップアート」フィルターは別世界にいるようなエモーショナルな色にすることで、自分が感じた感触や思いが強調されて写ります。同じ景色でも青空が“超記憶色”になり、全く異なる印象の写真に仕上がるのです。自己主張、感性を投影できるというのは、写真を撮る新しい楽しみですね。ポップアートフィルターは色を極端なほどエンラージ(強調)することで、アートの世界に簡単に踏み込めるのがとても面白いです。