小山薫堂(こやま・くんどう)は向田邦子(むこうだ・くにこ)だ。彼が初めて脚本を手がけた映画『おくりびと』に、向田邦子のエッセイで知ったという「石文」(いしぶみ)※が効果的に使われているからそう言っているのではない。向田は「猫を愛し、食に情熱を傾け、旅をし、スタイルのある上質な暮らしを楽しむ名人」だった。小山薫堂が猫好きかどうかはあいにく聞きそびれたが、「食に情熱を傾け、旅をし、スタイルのある上質な暮らしを楽しむ名人」であることは間違いない。猫にしても、散歩の途中ふとした瞬間に出会ったら、きっと猫の目線にまで身をかがめて、にっこり笑みを浮かべながらカメラを構えて表情豊かな愛らしい姿を撮影するに違いないのだが、ここでは「食」の話に絞ろう。向田邦子は「食卓」が舞台となるホームドラマを得意とした。彼女は台本に、献立をすべて書いた。そして収録現場にはそれらがちゃんと料理され並べられた。台本に書かれたメニューがいつも重要な意味を持っていたからだ。映画やドラマ、CMの撮影では、味のない食べられない料理が「消えもの」として用意されたりすることがよくあるが、向田邦子のドラマでそれは許されない。メニューは必然だからだ。小山薫堂の『おくりびと』にも同じことがいえる。『おくりびと』は、「死」と常に向き合う「納棺師」という特殊な世界を描いている。がしかし食いしん坊の小山薫堂の手にかかると、そこに「食」がみごとに絡んでくる。生きるということ、すなわち生きるために「食べる」という行為が、ほかの生き物の「命」をもらうことで成り立っているということを、「命のバトンタッチ」なのだということを、さりげなく登場するいくつもの美味しそうな料理で象徴的に語っている。
※石文=人が言葉を持たなかった時代、思いを伝えるために石を渡した風習。
映画の中で重要なキーワードになっている(編集部注)
日本アカデミー賞はもとより、本家アカデミー賞でも注目され、日本映画史上に燦然と輝く歴史的な作品となった映画『おくりびと』については、これからさまざまなアプローチで数多く語られていくことになるのだろうが、この連載は『食ッキング!スクープ』なので、今回は特に「食」に限定して、映画に登場する「食」と、そして脚本を担当した小山薫堂氏の個人的な「食」についてスクープしてみたい。
映画『おくりびと』 (C)2008 映画「おくりびと」製作委員会 (画像クリックで拡大)
監督:滝田洋二郎、脚本:小山薫堂、音楽:久石譲
キャスト:本木雅弘、広末涼子、山﨑努、余貴美子、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫、橘ユキコ、吉行和子、笹野高史
配給:松竹、公式サイト http://www.okuribito.jp
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