「“新書”最前線」は、日本で最も新書に詳しいWebサイト「新書マップ」の協力で、注目すべき新書の新刊を紹介するコーナーです。各社合わせて毎月80〜100点ほど出版される今いちばん元気な出版物「新書」のトレンド情報を、月1回のペースでお届けします。

 ここ数カ月で経済は急速に冷え込み、企業活動にブレーキがかかっている。派遣切りや内定取り消しは、企業がいよいよなりふり構わず人材の整理に手を染めはじめたことの表われだ。年の瀬のこんな厳しい世情にあって、企業にとって「人」とはいったい何なのだろう?などということを考えてみたりするのは、悠長に過ぎるだろうか。いや、こんなときだからこそとも思うのだ。そこで今月は、企業とそこで働く人との関係について考えさせてくれる3冊を紹介したい。

今はもう通わない……? 経営者の心と被雇用者の心

竹内裕『日本の賃金 : 年功序列賃金と成果主義賃金のゆくえ』
(ちくま新書/735円)(画像クリックで拡大)

 なんでも金で買えるなんて思ったら大間違い、という常套句は「人」を指す。これを企業に置き換えれば、人材の質を担保するものは給料だけではないということになる。

『日本の賃金』は、能力主義や成果主義などの導入で、年功序列から大きくパラダイムを変えてきた日本の賃金制度について再考察を促す本だ。

 昔の日本企業は良かった……という懐古の混ざった声を最近しばしば聞く。終身雇用を前提に年功に報いる賃金体制には、被雇用者の生活を保障し守る意味合いもあった。しかしバブル崩壊後の長い不況のうちに進行したパラダイムシフトにより、いまや被雇用者は自分の能力とその時々の結果に応じて生活をリサイズしなければならなくなっている。会社と従業員とのエンゲージメントは希薄になるばかりで、これでは行き過ぎだという声は、被雇用者の側ばかりでなく、会社経営者の立場からも発せられている。

 ではどのようにすればいいのか?

 だからといって元に戻ることはもうできないのだ、と著者は言う。単純に年功序列に戻してしまえば若手のモチベーションが削がれる。その分、優秀な人材も育ちにくくなる。競争の激化した現代において、それはまさに致命的だ。

 著者の提案する「日本型能力・成果主義賃金」は、X軸に〈積上げ方式←→洗替え方式〉、Y軸に〈職務・成果重視←→年齢・姿勢重視〉を想定した4象限のなかに、各企業が落としどころを見つけるとするものだ。賞与や諸手当、退職金についても、それぞれに最近の動向と考え方が記されている。

 賃金制度の各要素について本書などを参考に研究し、方向性を了解したら、あとは的確な判断を下すだけ。と言っても、これがなかなか難しい。だがここは考えどころなのではないか。従業員にどのような賃金制度を提案し、制度の透明性をいかにして保つかという努力こそが、人件費の多寡以上にこれから重要になってくるのではないか。なぜなら金だけで人を買うことはできないし、会社とのエンゲージメントも育たないからである。