ヴァイオリニストとしてだけではなく、トークの軽妙さが人気を集め、メディアでも活躍する高嶋ちさ子氏。家庭では一児の母でもある。演奏家としてのプレッシャーと日々の忙しさの中で、快活さを保つ秘訣はどこにあるのだろうか。

(取材・文/仲藤里美、写真/猪又直之)

お客様に楽しんでいただくのが、自分たちの責任

高嶋ちさ子(たかしま ちさこ)。東京生まれ。6歳からヴァイオリンを始める。桐朋学園大学、イェール大学大学院修了後、音楽活動を開始。1995年、CDデビュー。また、自身のプロデュースによるシリーズコンサート「めざましクラシックス」などを通じ、全国各地で多くのクラシックファンを獲得している。06年、女性ヴァイオリニストだけで構成したプロジェクト・ユニット“高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト”を結成。幅広くメディアにも登場するなど、さらに活動の場を広げている(画像クリックで拡大)

――年間100本以上のコンサートに出演されていますが、大勢の聴衆の前で演奏するというのは、やはり緊張されるものですか?

高嶋: 私、実はとても緊張するタイプなんです。それこそ高校時代の発表会のときから、毎回毎回、緊張しなかったことはありません。本当に、これほどこの仕事が向いてない人間はいないんじゃないかと思いますね。

 しかも、「うまく弾けるかな」というポジティブな方向の緊張ではなくて、失敗したらどうしよう……というか、絶対失敗する、今までの中で最悪の結果になるに違いないと思い込んでしまうんです。なぜかヴァイオリンに関しては、基本的にとてもマイナス思考なんですよ。ステージに出る前には、「お客さんみんな帰ってくれないかな」とか「地震が起きるなら今起きてくれ」なんて思うこともあります(笑)。

――その緊張を、どうやって乗り越えてステージに立たれるのですか?

高嶋: 乗り越えないまま出てしまっていますね(笑)。演奏中も、一番つまらなそうな顔をしているお客さんに目が行って、「あのお客さん、きっと怒ってるんだ」とまたマイナス思考になったり。

 ただ、最近はコンサートの中で、お客さんを舞台に上げてヴァイオリンを弾いてもらうようなコーナーを作っているので、そのときにわざと、その不機嫌そうなお客さんを指名してみますね。そうしたら、意外に笑ってもらえて「なんだ、怒ってなかったわ」とほっとしたりするんです。

――そういったお客さんの「生の反応」が、演奏家という仕事の面白さでもあるのでしょうか。

高嶋: そうですね。自分がやったことの結果がすぐその場で出る、弾いたその瞬間の拍手がバロメーターになる仕事なので、せっかちな私にはとても合っているし、やりがいがあります。一方で、あくまでも楽器の演奏ですから、練習してもその結果が出るのは1年後、2年後だったりする地道なものでもあるのですが。

 デビューしたばかりのころは、私の仕事はただ「ヴァイオリンを弾くこと」だと思っていたんですね。練習さえしていれば、ヴァイオリンがうまければ喜んでもらえる、と。

 でも、実際にはそれは最低条件に過ぎなくて、お客さんはそこに「プラスα」を期待して来てくださっているわけです。ですから、曲の選び方や説明の仕方、ドレスの色……そうしたことも全部含めて、お客さんに喜んでいただけるようなコンサートの作り方を考えるようになりました。皆さん、お金と時間を使って来てくださっているのに「イマイチだったね」と言われてしまっては詐欺のようなもの。とにかく「楽しんでいただく」責任が私たちにはあると思っています。