先々週、公開された「崖(がけ)の上のポニョ」がジブリ史上2番目の好ダッシュで観客動員を増やしている。なんといっても印象的なのは「ポーニョ ポーニョ ポニョ さかなの子」という主題歌だろう。これが耳について、マジに離れない。

 映画が封切られる、かなり前から「着うたフル」のベスト10にランキングしていたが、公開されてからはデイリーで連日、ブッちぎりの1位が続いた。

 というのも、実は、この曲、発売は去年の12月だからだ。主題歌のみ先行発売という、珍しい「半年かけての新手のプロモーション」だったのだ。

 どこからか聞こえてくる漠然と耳にしていた音としての「ポニョ」が頭に刷り込まれていたために、そのポニョが映像(金魚姫)に結びついた途端、「あーなるほど」と短期間でだれもが馴染(なじ)んでしまったわけだ。

 しかも「大日本人」「クローバーフィールド」なみに、直前の映像露出やインタビューは最小限に抑えられた。鈴木敏夫プロデューサーの戦略の勝利といえるだろう。

 その鈴木プロデューサーを初めて取材したのは、まだ彼が徳間書店の雑誌「アニメージュ」の編集長だった頃(ころ)だ。ともかくアニメの右も左もわからず、途方に暮れていた私に、穏やかに親切に、アニメのイロハから解説してくれたものだった。「あの宮崎駿を唯一御せる人物」というのもむべなるかな、だ。

(文/エンターテインメント評論家 麻生 香太郎)

【初出】日本経済新聞、2008年8月2日夕刊
※「テレビの壺」は麻生香太郎氏が日本経済新聞、土曜日の夕刊に連載中のコラムです。日本経済新聞に掲載後、麻生氏および日本経済新聞社に許可を得て転載しております。

著者

麻生香太郎(あそう こうたろう)

大阪市生まれ。東京大学文学部卒。在学中に歌謡曲の作詞家として活動を開始。森進一、野口五郎、小柳ルミ子、小林幸子、TM NETWORKらに作品を提供した。その後、80年代半ばにエンタテインメントジャーナリストへと転身。以来、20年以上にわたって業界をウォッチし続ける。現在は「日経エンタテインメント!」「テレビ・ステーション」などで連載コラムを執筆中。著書に『ジャパニーズ・エンタテインメント・リポート』(ダイヤモンド社)など。