ダビング10は土壇場でも手詰まり状態 次回の委員会開催も不透明

 ダビング10の開始予定日である2008年6月2日午前4時が迫ってきたが、5月28日現在、依然として“予定”のままで確定はされていないのがの現状のようだ。そこでメーカー団体であるJEITA(社団法人電子情報技術産業協会)のコンテンツ保護検討委員会委員長を務める田胡修一氏に、ダビング10の現状を聞いてみた。

Dpaからの回答は同じ

JEITA(社団法人電子情報技術産業協会) コンテンツ保護検討委員会委員長の田胡修一氏(画像クリックで拡大)

 JEITAは5月13日にDpa(社団法人 デジタル放送推進協会)に宛てて、ダビング10運用開始日確定を求める依頼を提出しているが、Dpa側は「運用開始を可能とするための諸条件の合意に至らなかったため、日時を確定することができない状況にある」とアナウンスしている。田胡氏は「メーカーサイドとして、できる限りの準備はしているが、ダビング10の開始日時が確定されないと動けない」と語る。以前に報告したように(「なぜダビング10は暗礁に乗り上げたのか?」参照)、ダビング10対応機能をレコーダーに搭載するためには、開始日時から少なくとも1カ月ほど前には日時を確定しなければならないからだ。「合意の形成は不透明で、ダビング10開始は6月2日以降になる公算が強く、その先も見通せない状況にある」(田胡氏)という。

ダビング10と補償金は引き替え?

 ダビング10にかかわる関係者は、コンテンツ権利者、AV機器メーカー、放送事業者で、この3者が合意に至らない背景には、録音録画補償金をめぐる権利者とメーカー間の対立がある。この問題に触れる前に、ダビング10と補償金の性格の違いについて確認しておこう。

 ダビング10はHDD内蔵の録画機器に限った「民間ルールのコピーワンス緩和策」であり、法律のように一律に採用が強制されるものではない。メーカーは従来のコピーワンスのままの機器を作ることも可能だ。この「民間ルールであること」を前提に、実施を議論するための場として総務省の「情報通信審議会」がある。

 一方、補償金(私的録音録画補償金制度)は著作権法(著作権法30条2)による法制度の問題になる。将来の法制度の見直しを議論するのが、文化庁の文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」という位置付けだ。

 ダビング10は民間ルールであるため、最悪の場合、権利者の合意なしでも、AV機器メーカーと放送事業者の準備さえ整えば開始は可能になる。しかし、放送事業者は権利者と近い関係にあり、映画制作などで自らも権利の受益者である。そのため、権利者の主張を無視することができず、ゴーサインを出せないのが現状だ。「権利者が放送事業者を巻き込んだ形で異議を唱えている」(田胡氏)。

 また、いったんダビング10を開始した後に問題が起きて、元のコピーワンスに戻そうとすると、全国の放送施設の改修が必要になってしまう。開始日時になると、レコーダーが現在のコピーワンス放送をそのまま「ダビング10放送」に“読み替え”て、逆にコピーワンスのフラグが付けられた放送だけをコピーワンス放送として受け取ることになるというイレギュラーな方法を採っているからだ。これは全国各地に大小さまざまな系列局を持つ放送事業者に対して便宜を図ったためだが、このダビング10の仕様も放送事業者を躊躇(ちゅうちょ)させている要因と思われる。

 さらに各当事者の立場の違いも大きい。メーカーにはボーナス商戦と北京オリンピックまでにダビング10を開始して商機をつかみたいという思惑がある。また、放送事業者には2011年のアナログ停波を控えて、デジタル放送への円滑な移行を図るためにダビング10を実施したい、という事情がある。これに対して権利者は大きなタイムリミットや国策に縛られていないのが実際だ。

 こうした状況の中で「ダビング10と補償金は、本来別個に議論すべきものと考えているが、北京オリンピックなどタイムリミットのある現状では、ダビング10と補償金を引き替えに交渉せざるを得なくなっている」(田胡氏)。時間的に余裕のある権利者が、タイムリミットのあるメーカーを揺さぶるという構図が見えてくる。メーカーはダビング10を“人質”に取られた形と言えるだろう。