昨年来、勢いの止まらないように見えるソフトバンクモバイル。同社を引っ張る孫正義社長は、ケータイ業界の「常識」を次々に壊しているようにも見える。

 しかし、孫社長が自分の思うがままに携帯電話事業で采配を振るう影には、とても苦労している人がおり、彼らの支えがあるからこそ、孫社長は思う存分、他社を攻撃できるのだ。

 今回は、孫社長を陰で支えるソフトバンクモバイル・宮川潤一CTOを直撃。ネットワーク戦略のこれからと「本音」を聞き出した。

ボーダフォン買収時にはネットワーク担当として東奔西走

 宮川氏とのインタビューは、実は2年前にも行っている。そのときの名刺交換は、ソフトバンクモバイルではなく、赤い「ボーダフォン」だった。ソフトバンクでADSL事業を立ち上げ、ボーダフォン買収時にはネットワーク担当として、東奔西走していたのだ。

 ボーダフォンと言えば、「海外で繋がるが、国内は圏外ばかり」と揶揄されたこともあるくらい、ネットワーク品質が悪かった。ソフトバンクが買収した当初、孫社長は「基地局を4万6000局まで増やす」と公言。あまりに無理な数字に、筆者を含め、業界全体が「そんなの無理」と冷ややかな目で見ていた。

 孫社長の公約を陰で支え、実現したのが実は宮川氏なのだ。

ソフトバンクモバイル宮川潤一CTO

宮川氏:「買収当初、孫社長が株主宛に4つのコミットメントを示した。営業、端末、ネットワーク、コンテンツの4つを頑張ると約束した。おのおの持ち場に別れた。

 どうも僕はくじ引きが弱いみたいで、ネットワークを割り当てられた。

 買収当時、ボーダフォンには、1万8000局ぐらいしかなかった。

 ボーダフォン時代のユーザー満足調査を見てみると、エリアに対する不満が多く、翌年のMNPは耐えきれないという判断があった。

 営業力的には、うちは強い。しかし、契約者は増えても、解約者が増えては意味がない。解約防止策には顧客満足度を上げるしかない。最初の1年間は、穴ぼこだらけのエリアをどうやって埋めていくかが優先事項だった。

 MNPを直前に控えているのに、過去と同じペースで基地局の建設計画を実行していても、『これじゃ、やられるだけでしょ』という結論になった。すぐさま銀行団と話し合いをして、どうせ2~3年間、基地局を作るならまとめてやらせてくれ。ファイナンスの問題だけでしょ。と承諾を得て、急ピッチで発注して、工事に着手した」

 だが、ADSLなどでネットワークに精通しているはずの宮川氏であるが、無線である携帯電話となると予想以上に「困難である」ことがわかってきたという。

宮川氏:「やってみると難しい。こんなに無線が難しいとは思わなかった。こんなに難しいなら、モバイルをやりたいなんて言わなければよかった(笑)。

 電波は生き物で、毎日動いている。ゴールがない。『できた』と思ったら、また真ん中にビルがひとつ建設されてやり直し。

 オーナーがこのビル壊したいと言ったら、移動先を探さなくてはいけない。大きな風が吹いてアンテナの角度が変わると、クレームの嵐になる。いやー、大変な仕事だなぁ、と。それ以来、あまり部下を怒ってないですよ」