私たち人類は、地球という、宇宙でもかなり特殊な環境に住んでいる。
空気や水があり、適度な温度で・・・我々と同じような生命体が生きていける星の存在確率が非常に低いことは、天文学者の言説を引用するまでもなく想像に難くないが、いつもその環境の中にいる我々にとってはあまりに普通で、普段は全く意識することもない。そんな我々が使う道具もまた、それと同じくらい、いや、それ以上に限定的な環境でしか使えない物が少なくないことも、意識されることは少ない。
例えばボールペン。どこにでも転がっていて普段はなにげなく使っているが、これもまた、かなり限定的な場所でしか使えない道具の代表例だ。
ボールペンは、おおかたの人が思っているよりも、ずっとデリケートな筆記具だ。中でも重要なのが、重力の存在だ。ボールペンのインクは、重力によって、上から下に流れ出すという、ごく単純な方法で出てくる。このため、ボールペンは、先端を水平よりも上に向けて筆記すると、インクが後ろに下がろうとし、ボールと本体の隙間から空気を取り込んでしまう。一度空気が入ってしまうと、この空気を追い出すことができずに二度と書けなくなってしまう場合も少なくないので注意が必要だ。
ほかにも、ボールが適切に転がるためには、筆記面に適度な摩擦が必要だし、インクを吸水して乾かし、定着させるのに適した物にしか書けない。ボールの半分以上はペン先の部品に把持されているので、45度以上傾けて書いたり、筆圧が強すぎてボールが紙に沈んだりすると、その部品が紙面に当たってしまって摩耗するなどトラブルの原因になる。周囲の温度が低すぎるとインクが硬くなってかすれ、高すぎると柔らかくなり、ボタ落ちなどの原因になる。筆記スピードがインクの流動性を超えてしまうと、やはりかすれや空気が入る等の問題を引き起こす。
要するに、「私たちの心地よい温度の室内で机の上に広げた質の良いノートに正しい持ち方で適度なスピードで書き込む状態」が、ボールペンにとって理想的な状況であって、それ以外ではちょっとしたことでもそのパフォーマンスが発揮できない可能性が高いのである。おもいっきりインドア派なのである。ただ、その理想的状態が、使用する我々にとってあまりに普通なので、つい、どこでも使えるような気になってしまっているだけなのだ。











