ここんところ、昼下がりのテレビ番組といえばドラマの再放送ばかりである。

 2時から5時まで民放はだいたいドラマの再放送をしている。ワイドショーがない。ワイドショーがないと、何だか手持ちぶさたである。仕事をすりゃいいんだけど、仕事しながら見られるテレビが少ないってことだ。

 草野仁の『ザ・ワイド』がなくなってしまったのが痛い。べつにワイドショーなんざ、あってもなくてもいいと、やってるときはおもってたんだけど、いざなくなってしまうと、惜しいですね。なくなって初めて知るありがたみってことだ。「孝行をしたいときには親はなし、さりとて石に布団はかけられず」なんて諺をおもいだしたりして、おもいださなくていいですよ。

 ワイドショーをワイドショーたらしめているところは、それはNHKのニュースでは絶対に触れないようなところを深く掘り下げていってくれるところだ。NHKと断ったのは、最近の民放のニュース番組は、夕方の番組を中心として、やたらワイドショー化してるので、そう断ったまでで、昔なら「ニュース番組でやらないような部分」と書いておけばすんだんですけどね。

 ありていに言えば、猟奇的事件や、親族内での事件、学校関係の不祥事、そのへんの背景や周辺を掘り下げてくれるところです。ま、おばさんの興味本位に作られていて、「こんな事件を二度と起こしてはいけません」というセリフさえ立てておけば、あとはいったい何が起こったんだろうという興味を満たせてくれる方向に深まってゆくもので、そういう興味というのはこれは人間本来持っている業のようなものだけど、それを満足させてくれればよかったのだ。ワイドショーで、総理大臣の失政とか、国会議員の不祥事とか、役所の怠慢さとか、いわばパブリックな怒りを出されても、おもしろくも何ともない。それはカムフラージュのように入れ込んであったけれど、でも大きく時間を割くのはもっと個人的興味を持つもの、人の生活を見られるもの、他人さまの人生がぱっとわかるようなもの、そういう事件を見せてくれていました。でももう日本の午後にそういう時間はなくなりましたね。

 「最近はほんと、怖い事件がばかりよねえ。いやな世の中よねえ」と百年くらい言い続けられるのが、ワイドショーを見ているポイントだったんだけど、どうやらそれは夕方のニュースショーに吸収されてしまったみたいだ。

 ドラマの再放送が流れても、何か知ってる世界の繰り返しのように見えて、世の中に参加してない気分になってしまう。だって、ドラマはおもしろいのはだいたい見てるし、見てないのはだいたいおもしろくないしで、再放送は盛り上がらないのだ。ま、個人的にドラマを見すぎってことはありますがね。

 いまでも昼のワイドショーがないわけではない。TBSがやってる。昼前からの福澤朗の『ピンポン!』、2時からの『2時っチャオ!』だ。ただ『ピンポン!』はニュースショー的で少々硬く、『2時っチャオ!』はタイトルからしてもゆるい感じで、たとえば「草野仁のザ・ワイド」とタイトルを比べてもわかるけど、緩くてぬるいんですな。スタジオも何だか『はなまる』ぽくて、司会がホンジャマカの恵だし、タレント司会だとタレント批判を正面からやるわけはないから、まあ、全体に厳しくはならないですな。

 ご意見番のようなキャスターが司会しないと、芸能人に無意味に厳しい、ということが起こらず、それがまあ21世紀的風景なんだろうけど、いまは夕方のニュースにすべて吸収されてしまいました。

 もともと夕方のニュースは午後6時から1時間番組だったのだが、いまはだいたいどこでも5時からの2時間ワイドニュースショーになってますね。

 昔はちがいました。

 いま手元に1998年と2002年のテレビ雑誌があるので、そのテレビ欄を見てみると、たとえば10年前、1998年は日テレもTBSもフジも、夕方のニュースは6時からだった。昼はザ・ワイド、ジャスト、ビッグトゥデイと2時から2時間のワイドショーをやっていますね。それが昭和の昔から続く日本の午後だった。ただそのころから、テレビ朝日はワイドショーをやらずに午後5時から2時間のニュース「スーパーJチャンネル」をやっていて、すでに先駆けてますね。抜け駆けてるのかもしれん。

 2002年のテレビ欄を見ると、日テレとフジの夕方ニュースは2時間になっていて、TBSだけまだ1時間だ。午後2時のワイドショーはフジは終わっていて、日テレとTBSが残ってるという状態でした。

 2007年はワイドショーがなくなり、夕方のニュースショーは2時間となり、戦後レジームが見直されかけたけど、その話もどっかにいってしまいました。

 ワイドショーのような、昭和の主婦の欲望をきちんと満たしてくれた番組は、時代の流れから消えていってしまって、もうちょっときれいに仕上げられたニュースショーになって残ってる。きれいな世界に進化したように見えて、実は、本音を出さない世界になってきてるんじゃないかとふとおもったりするけど、そうなると世界は息苦しい状態になっていこうとしてるわけで、ま、そんなことはないだろう、ととりあえず気楽に考えることにしました。暖房をがんがんにきかした部屋で飲む冬のビールはうまいや。

■関連情報
・『ピンポン!』の公式サイト:http://www.tbs.co.jp/program/pinpon.html
・『2時っチャオ!』の公式サイト:http://www.tbs.co.jp/program/2zi-chao.html

著 者

堀井 憲一郎(ほりい けんいちろう)

堀井 憲一郎

1958年2月9日生まれ。京都市出身。コラムニスト。膨大でち密な調査をもとに、軽やかなコラムを書く文筆家。TVウオッチャーとしてのテレビラジオ出演も数々。落語とテレビに詳しい。趣味は草野球。阪神タイガースファン。花火師の免許も持つ。週刊文春にて「ホリイのずんずん調査」を長期連載中(1995年4月~)。ほかに月刊誌「本」(講談社)、「ぴあ 関西版」(ぴあ)、落語専門誌「東京かわら版」などに連載を持つ。インターネットサイト「ドガッチ」内においてテレビに関するブログ「ホリイのテレビ研究所」をほぼ連日更新中。