先般、雑誌の取材で最新ワイヤレスヘッドホンを一通り試聴する機会があった。そこで認識できたことは、もはや赤外線伝送方式は時代遅れ。現代のトレンドは2.4GHzデジタル無線伝送方式で、電波障害に強い上に障害物があっても音声が途切れず、広い範囲(直線距離で最大約30m)で楽しめるのが魅力ということであった。しかも決して高価ではない。大多数のモデルでサラウンド再生が可能ながら、3万円前後と比較的値ごろ感があるのだ。

 その中に、たった1台だけ10万円を超えるモデルがあった。オーディオテクニカの「ATH-DWL5000」。3万円前後のモデルがひしめく中、なぜATH-DWL5000だけが4倍近い値段なのか。

オーディオテクニカが2007年11月に発売したワイヤレスヘッドホンシステム「ATH-DWL5000」

 当然それにはワケがある。一言でいえば、ヘッドホンとしての『格』が違うのだ。2.4GHzデジタル無線伝送方式ならではのセー ルスポイントだけでなく、万が一音が途切れてしまった場合でも、欠落した情報を瞬時に再送信して音切れを防止してくれる機能が内蔵されているのだ。

 それが、24ビット非圧縮デジタル伝送方式で、ヘッドホンレシーバー部とトランスミッターが双方向通信を行う「Aモード」での再生だ。現時点でこの機能を持つのはATH-DWL5000だけ。このモードを使うと、一度に多人数で聴けるヘッドホン増設利用は不可となる。ヘッドホン(レシーバー)とトランスミッターが、邪魔者を一切寄せ付けない固い絆で結ばれた1対1の関係になるためだ。その結果、24ビットという情報量の多い信号伝送も可能になる(通常のBモードは16ビット非圧縮方式)。

 実際に聴いてみればすぐに分かるが、24ビットと16ビットでは、音のきめ細かさ、緻密さが断然違う。高域から低域にかけて音のレンジも広く、伸びやかさと臨場感が全く違うのである。

オーディオテクニカが2004年11月に発売したヘッドホン「ATH-AD1000」

 レシーバー部の回路基板や電池ボックスをドライバー/ハウジング部でなく、ヘッドバンド部分に設けた点も、本機の音質や装着感の良さに確実に貢献しているように思う。エアーダイナミック型ヘッドホンとしての基本的な音の良さは、ベースとなった「ATH-AD1000」で既に折り紙付きだ。

 機能の多彩さも、本機がリーズナブルなヘッドホンと一線を画している部分だ。トランスミッター部に備わったアナログ6ch入力端子は、SACD(スーパーオーディオCD)などのサラウンド音楽ソースのみならず、Blu-rayなどのHDオーディオコンテンツも、組み合わせるレコーダーやプレーヤーがアナログ6ch出力を装備していればサラウンドで楽しめる。また、ドルビーバーチャルスピーカー機能を内蔵しており、テレビ内蔵のステレオスピーカーでも、本機のトランスミッターを経由させることで擬似的なサラウンド再生が可能となる。

 ドルビーデジタルやDTSといったサラウンド対応だけでなく、音の良いワイヤレスヘッドホンが欲しいとお考えの方。ちょっと奮発するには勇気のいる金額かもしれないが、一味違うワイヤレスということであれば、試聴してみて損のないモデルである。

著者

小原 由夫(おばら よしお)

オーディオ&ビジュアル評論家。理工系大学卒業後、測定器エンジニア、AV専門誌の編集者を経て現在に至る。ハードからソフトまでの幅広い知識とそれに基づく評論、解説が支持を得ている。現在「nikkei BPnet セカンドステージ」にて、「DVD 見方・聴き方・楽しみ方」を好評連載中。