日経キャラクターズ!誌での連載終了から約1年--。
「小説VOTOMSいちぶんの一」が帰ってきた。
新作オリジナルビデオアニメ『装甲騎兵ボトムズ
ペールゼン・ファイルズ』の制作現場での出来事を
高橋監督が自らの筆で綴る!

【主な登場人物】
矢立肇:サンライズの創業メンバーにして伝説的企画マン。
『勇者ライディーン』も『機動戦士ガンダム』も『装甲騎兵ボトム
ズ』もこの人の企画である。

スティーブ:フルネームをスティーブ・ツカダ。アメリカ生まれ
の日系3世、今回のDVDシリーズ『ペールゼン・ファイルズ』のプロ
デユーサー。

一休:岡山の寺の次男坊。スティーブのアシスタントであり高橋
のブレーンでもあるが、まだ入社2年目の新人。


 今年のアツ――イ夏の始まりのころ、突然『矢立肇』がボトムズ
の制作室にやって来た。

「なんでえ、ずいぶんとガランとしているじゃねえか」

 俺しかいない室内を見回し、甲高い声を張り上げた。

「スティーブも一休も出払ってるんだ。塩山さんは用がなきゃあ
来ねえし……もっとも、現場はアンサースタジオ(注)だからな、
ここはこんなもんさ」

 俺は一切合財が入ってる鞄のショルダーを肩に掛けると入り口に
向った。矢立の付いて来る気配がない。振り返ると矢立が室内を懐
かしそうに眺め回している。

「どうした?」
「いや、昔ここでガンダムもボトムズも生まれたかと思うと……」
「柄じゃあねえよ」

 そうは言ったものの、俺の足もふと止まる。2、30年前はこの4階
建てのビルの1、2階がサンライズの現場、3階は家族ぐるみでやっ
ていた小さな縫製工場、4階はその一家の住居だった。俺が1階で
『太陽の牙ダグラム』で脂汗を流していたころ、2階では富野喜幸
、現由悠季が『戦闘メカ・ザブングル』『聖戦士ダンバイン』で疾
走していたのだ。常時50人ほどの若いやつらが右往左往していた。
それが今は全4階分の部署をすべて足しても10人に満たない。

「此処だけだったんだものなあ」
「ああ、なあ……」

 とジジイ二人がしばし物思いに沈む。なにせ今は真新しい5階建
のビルに本社機能を集中さ、上井草の各所に数十の現場スタジオが
点在している。

「行くか……」

 俺が促す。

「ああ、ビールが待ってる」

 今まさに部屋を出ようとしたそのときだった。

「ノンノンノンノーーン! ストップストップ! マダカエッチャ
ダメノコンコンチキチキダーネ!」

 一人で十人分の騒々しさを振り撒きながらスティーブが帰ってき
た。

「ヘイ、イッキュウ、カントクノヤローニ、ドリンキングノマエ
ニ、ヤッテイタダキヤガレッテ」
「はい、ボス!」

 スティーブの脇からチョろっと出てきた
一休が小脇にしていたものを部屋の大机に
わらわらと広げ始めた。

「模造紙、赤の墨汁……でけえ筆だな!! 
どうすんだこれ!?」
「ボスの言うにはですね……」

 一休の説明によるとこれから制作の佳境に
入るにあたり、自らの士気を高めるためにも
なんかこう目立つものをスタジオの入り口に
掲げたいとこういうことらしい。

「目立つものたってなあ……」

 逡巡(しゅんじゅん)する俺に矢立肇が言
った。

「参謀本部」
「参謀本部!? なんだそりゃあ?」
「現場、いわば戦場における前線はアンサースタジオなんだろう。
だったら此処は総司令のスティーブが常駐し、現場指揮官の監督も
居て、なおかつシオドメの高級参謀殿も出入りする参謀本部ではな
いか。ボトムズ、ペールゼン・ファイルズ制作参謀本部、これで決
まりだ」

「オオ―――ッ!! サアーンボウホーンブ、サアーンボウホーンブ、
キャッコイイ!! サッスガノヤタテサ――ン!」

 てなことで書いたのがこれだ。

「参謀本部か……何だか照れくさい。だが俺の胸には久しぶりに
熱いものがこみ上げてきたぜ」

 と、うそぶいてみたら一休が、

「それって、ウド編『救出』のキリコのモノローグのパクリっすね」

 って突っ込みやがった。ま、しかしその後の生ビールは美味かったな。
(続く)

注)アンサースタジオ:アニメーションの制作会社。『装甲騎兵ボ
トムズ ペールゼン・ファイルズ』の制作を担当している。

高橋監督 最新作

10月26日発売の「装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ」。価格は7140円(税込み)。アクティックギア ペールゼン・ファイルズバージョンが付属する限定版(初回生産)は9240円(税込み)です。

装甲騎兵ボトムズの最新オリジナルビデオアニメ、『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』のDVD第1巻が10月26日発売されます。第1話「渡河作戦」と第2話「ガレアデ」を収録。最新の3DCGで描かれたボトムズ史上最大の激戦をお楽しみください。

価格は7140円(税込み)。アクティックギア ペールゼン・ファイルズバージョンが付属する限定版(初回生産)は9240円(税込み)です。発売・販売元/バンダイビジュアル。

著者

高橋良輔(たかはし りょうすけ)

高橋良輔

1943年1月11日東京生まれ。1964年、株式会社虫プロダクションに入社。
主な作品に「W3(ワンダースリー)」「どろろ」「リボンの騎士」などがある。虫プロダクションを退社後、サンライズ創業初期に「ゼロテスター」(監督/1973)に参加。代表作として「太陽の牙ダグラム」(原作・監督/1981)「装甲騎兵ボトムズ」(原作・監督/1983)「機甲界ガリアン」(原作・監督/1984)「蒼き流星SPTレイズナー」(原作・監督/1985) 「沈黙の艦隊」(監督/1996)「ガサラキ」(原案・監督/1998)「火の鳥」(監督/2004)「モリゾーとキッコロ」(監督/2004)「FLAG」(原作・総監督/2006)「幕末機関説 いろはにほへと」(原作・総監督/2006)がある。最新作「装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ 劇場版」(原作・監督)は2009年1月17日より、新宿ピカデリー他にてロードショー。