コピペサイトやブログも釣られた鮮やかな“釣り”

 セロのマジックでも見るような見事な“釣り”だった。

 “釣り”というのは、ネットに嘘の情報を流したり、わざとたたかれるような発言をして、それに踊らされる人を見下して楽しむイタズラだ。そのイタズラを仕掛ける人は“釣り師”と呼ばれる。職人的な釣り師は、ほかの発言者や閲覧者は釣られていることに気づかない、という実に鮮やかな仕事をする。

 “釣り”の現場は、9月27日の午後2時5分、「2ちゃんねる」の「ニュース速報(VIP)板」だ。「モスバーガーのきれいな食い方教えれ」という表題の、たわいもないスレッドが立てられ、6時ごろまで書き込みが続いた。

 ハンバーガーを上手に食べるためのノウハウを話し合うという雰囲気で始まったかのように見えたが、10分後に奇妙な発言が現れる。

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。2007/09/27(木) 14:15:17.48 ID:EEG+aMnW0 おいおい知らないのかよ・・
まず上の右手と逆の角を持つだろ、そんできちんとはしを重
くるっと向きを変える。で、下のとがってる部分
出るように(反対側から)持って手前に回す、ぴったりに
するとちょうど開くから、そこからおもむろにガブ
これで絶対ふくろに溜まらない。ばっちりで

 一読してこの手順が理解できるだろうか? できないのが普通だろう。掲示板の参加者も閲覧者も理解できず、次第にこの発言者をからかい始めた……。

 しかし、これこそ釣り師のワザだった。この発言の文末を下から上に読むと「つりだがね・」と読める。“釣り”の宣言だったのだ。

掲示板の展開から“釣り”がばれると、「釣れますか」といったアスキーアートが張られることがあるが、今回はなかった

 掲示板でのやり取りはすでに「2ちゃんねる」では見当たらないが、「コピペサイト」「コピペブログ」と呼ばれる転載サイトでは読むことができる。最初に“釣り”だと知っていて読むと“釣り”の醍醐味(?)がなくなってしまうかもしれないが、そのワザの鮮やかさははっきり分かるだろう。釣り師は、説明下手で多くの人にからかわれて必死になっている人間を演じ、早々に第2の宣言を書き込んでいる。

47 :VIP774 :2007/09/27(木) 14:39:29.02 ID:EEG+aMnW0

ちょっと待て「逆まわし」「まわし開け」とか地元で(うちの)言われてる
開け方なんだが、どこの田舎もんだおまえら(俺も田舎がだ)。

手順を逆から書くと、
最終的にぴったりと袋が(袋じゃないが)くればいいわけだから、
回したときに、下のほうがくるっとなってて欲しいわけだよな?
そうなってれば綺麗になるはずって意味。つまりそうなってれば都合がい
もちろん、先に言うと裏だった(?)ところの意味での下って意味だけど
(ここまではOKだよな?というか、考えてわか
で、普通に持
で、そうしておくためには最初にrこくんところが右、端がひだ
だったら、きれいにおさまる手順になるわけだよ
だから、最初に開けるときに左手(逆から見て右)じゃ
東日本のやつらならわかるよな

 文中に「逆まわし」「逆から」などの“釣り”のヒントをちりばめつつ、やはりここでも文末を逆から読めば、「あんまりつれないな?」というつぶやきが現れる仕掛けだ。

 だんだんと釣られる人が出てくる。釣られた人たちは、「分からない」「なんて下手くそな説明なんだろうと」と思っている。それがまさに釣り師の狙いだ。

スマン…全くわからんwww
説明すればするほどカオスwwww

 話の雰囲気から“釣り”を察し始める人もいるにはいた。

なんか盛大に釣られてる様な気がしてきたwwwwwwwwwwww

 とは言え、結局、その時はこれが“釣り”だとはっきりと暴いた人はなく、訳の分からないハンバーガーの食べ方をほのぼのと笑うという流れで展開した。そして、そのままいろいろなWebサイトに転載されることになり、多くの人の目に触れる事態になって、ようやくこれが“釣り”であることが指摘されるようになった。

 この釣り師が意図したことは何だったのだろうか。説明の下手な人、頭の悪そうな言い方をする人を演じ、それを笑う人びとを暴き出してみせるということだったことは確かだろう。もちろん、その掲示板がネットのあちこちにコピペされ、そこでまたあざ笑う人が増加することも予想していたに違いない。昨年、世界的に話題になった風刺映画「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」に似た趣向だが、今回の釣り師は、自分より愚かと思える対象をからかったり、正義感に反する対象を“フルボッコ”にするネットの現状を批判したとも言えるのではないだろうか。

映画「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」では、バカを装ってアメリカ文化にある偏見を暴き出し、笑いの対象にしている。アメリカ人を“釣り”まくった

著者

佐藤 信正(さとう のぶまさ)

テクニカルライター。1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、同大学院で言語学を学ぶ。小学生のときにアマチュア無線技士を免許をとり、無線機からワンボード・マイコンへ興味を移す。また初代アスキーネットからのネットワーカー。通信機器や半導体設計分野のテクニカルライターからパソコン分野へ。休刊中の「日経クリック」で10年間Q&Aも担当していた。著書「Ajax実用テクニック」「JScriptハンドブック」「ブラウザのしくみ」など。