フュージョンをほとんど聴かない。1980年代のには少し聴いていたが、それはギターが好きだったからだ。
 ぼくが一般的なジャンルにとらわれず、幅広く(そして、浅く)さまざまな音楽を聴いてきたのはギターが好きだったからだ。フラメンコ、ブルーズ、クラシック、ジャズ、タンゴ(というよりもアストル・ピアソラ)、ボサノヴァをぼくはギターミュージックとひとくくりにとらえている。

 ぼくが好きなギタリストにパット・メセニーがいる。パット・メセニーはフュージョン系ということになっている。フュージョンをほとんど聴かないにもかかわらず、ぼくのCDラックのかなりのスペースをパット・メセニーが占めているのは、ぼくにとってはジョアン・ジルベルトやパコ・デ・ルシアやバディ・ガイらと同じく、ギターミュージックのカリスマ・ヒーローだからだ。

 パット・メセニーは個人名義のソロ活動、コラボレーション(近年はブラッド・メルドーとの共演が話題になった)、サポートメンバーとしての活動(マイケル・ブレッカーの遺作となった新作など)、そしてパット・メセニー・グループでの活動がある。
 とはいえ、どれを聴いてもパット・メセニーはパット・メセニー以外の何者でもない。

 実は最初からパット・メセニーが好きだったわけではない。1980年ごろに初めて聴いたときは、何だかよくわからなかった。
 ジャズとも違うし、いわゆるフュージョンとも違う。つまり、パット・メセニーはパット・メセニーだけの世界を初めから持っていた。

 ギターの音色からして、独特だった。ギターなのかどうか、最初はわからなかった。それはギターシンセサイザーだったわけだが。
 ブルーズの影響をまったく感じさせないギタープレイも驚きだった。

 そのパット・メセニーの来日公演がある。
 CDはたくさん持っているが、ライヴを聴いたのは1996年の〈ウィ・リヴ・ヒア・ツアー〉一度だけだ。ほかにも行きたかったが、残念ながらチケットがとれなかった。
 今回は仙台でもコンサートがある。仙台なら日帰りも可能だ。
 11年ぶりに生でパット・メセニーを聴くことにした。

マイルズ・デイヴィスと同じくらいのスペースをパット・メセニーが占めている。マイルズと同様、パット・メセニーも「ジャズ」とか「フュージョン」といったジャンルを超えて、現代の音楽の頂点を示していると思う。常に新作が気になるミュージシャンだ(画像クリックで拡大)

つづく

筆者紹介 斎藤 純(さいとう・じゅん)
 作家。1957年岩手県生まれ。立正大学文学部卒。大学卒業後、コピーライターの傍ら、出版社に投稿を続け、84年『辛口のカクテルを』で北の文学最優秀賞を受賞。88年『テニス、そして殺人者のタンゴ』でデビュー。91年小説家として独立、94年『ル・ジタン』で日本推理作家協会賞。2005年『銀輪の覇者』が「このミステリーがすごい 05年版」でベスト5に選出された。主な著書に『オートバイの旅は、いつもすこし寂しい。』『モナリザの微笑』などがある。
 毎月出かけるいろいろなコンサートや展覧会での感動体験を綴ったエッセイが岩手めんこいテレビ公式サイト「目と耳のライディング」で好評連載中。また、斎藤純さんご自身のブログも随時更新中です。