コンパクトデジカメでも1000万画素を超えるのは当たり前で、2GBのメディアが3000円など、大容量のメディアも買いやすくなった。好きなだけデジタル写真を撮れるようになった一方で、大容量の画像ファイルがどんどん増え、「欲しいファイルをすぐに見つけられない」というユーザーも多いのではないだろうか。

 そこで今回は女性のグラビア撮影で有名な山岸 伸カメラマンに、大量のデジタル写真を効率よく管理する方法を聞いた。(聞き手:日経PC21編集部・西畑浩憲、写真:山田慎二)


山岸 伸 (やまぎし・しん)
1950年3月22日・千葉県出身。日本写真家協会会員・日本広告写真家協会会員。
俳優・アイドル・スポーツ選手などのポートレートを中心に作品を手がける。広告、グラビア、写真集、雑誌表紙撮影などの分野で幅広く活躍し、これまでに出版した写真集は、350冊以上。早くからデジタルカメラでの撮影に取り組み、インターネットや携帯電話のサイトでも積極的に作品を発表し続けている。最近は、イメージDVDの監修、プロデュースなども手がける。

――現在お仕事では、フィルムとデジタルどれくらいの比率で撮影されていますか?

山岸氏:だいたい3:7で、デジタルが多いですね。フィルムは、雑誌の表紙を撮影する時に使うことが多かな。表紙用の写真でも、今ならもうデジタルでいいと思うんだけど、依頼元から「フィルムで」と言われればフィルムで撮ります。

――1回の撮影でどれくらいのコマ数撮影されるんですか?

山岸氏:この前の撮影だと6日で8000コマ撮ったから、平均して1日1000コマ以上撮ってることになりますね。昔から撮影の時は、アップ、引き、縦位置、横位置といったバリエーションを考えながら、撮影場所1カ所につきフィルム10本(360コマ)程度撮るのが普通です。デジタルになってから少しコマ数は減ったけど、それでも1カ所で300コマ以上は撮ってるかな。

――メモリーカードはどれくらいの容量のものを何枚使っているんですか?

山岸氏:メインで使っているのは、4GBのものが4枚。あとは昔使っていた1GBとか2GBのものも何枚か。1カ所の撮影が終わって車に引き上げると、すぐにパソコンにコピーして写真をチェックします。問題なければ次の撮影場所に移動して、コピーが済んだカードをフォーマットしてまた撮影。これの繰り返しです。カードが一杯になるより前に、シーンやポーズといった撮影内容を変更するタイミングでカードを交換することが多いですね。8GBとか大容量のメディアになると、万一カードを紛失したり、データが消えたりした場合に失うコマ数が多すぎるので、今は使ってません。

――撮影後はどういうワークフローで作品を仕上げていますか?

山岸氏:シャッターボタンを押した時点で写真は完成しているべきと思っているので、レタッチ作業はほとんどしません。その分セレクトには手間をかけてます。まず撮影画像を全部ハードディスクにコピーしたら、「目つぶり」「ピンボケ」「ブレ」が原因の失敗写真をアシスタントがチェックして、候補から外します。残ったものからいいものを第2、第3、第4段階まで自分でセレクトして絞ります。第4段階まで残ったものが、雑誌に掲載される作品になります。

――大量の撮影画像は、どうやって管理していますか?

山岸氏:撮影した画像は、撮影日とモデルごとにフォルダ分けしています。そのフォルダの中に第1〜第4セレクトのフォルダがあって、第4セレクトのフォルダを見れば、作品レベルの写真だけが集まっているという仕組みです。DVDなんかのメディアでは容量が足りなくて到底追いつかないので、画像はすべて外付けハードディスクに保存しています。

撮影画像を保存している外付けハードディスクの一部。1台350GB〜500GBのものを2台ずつ購入し、1台はバックアップとして使う

――バックアップはとっていますか?

山岸氏:ハードディスクは毎回同じ製品を2台ずつ買っていて、1台をバックアップとして使っています。その結果ものすごい勢いでハードディスクが増えています。本当はいらない画像は削除したいんだけど、その作業をしている時間もなくて、今は撮影画像をとにかく全部保存してある状態です。

――フィルムで撮影した写真はどう管理しているんですか?

山岸氏:事務所の一室が保管庫になっていて、そこにまとめて保存しています。しばらく前にアルバイトを雇ってかなり整理しました。20年以上撮り溜めたフィルムの数は膨大で、整理し終わるまで4年もかかりました。なんだかんだ言っても、フィルムはよほどひどい場所に放置しない限り画質劣化は少ないので、改めてデジタル化することはないと思います。

事務所の一室を埋め尽くすフィルムの保管棚。20年以上撮りためたフィルムを4年がかりで整理した。それでも大量の写真が残っている

――フィルムとデジタルで写真の管理はどう変わりましたか?

山岸氏:劇的に楽になりましたね。フィルムの場合、昔撮影した写真を探すのに半日かかることもあったけど、デジタル画像ならパソコンで検索すればスグに見つけられる。編集者やモデル事務所が撮影画像をチェックする場合、前はオリジナルのフィルムをバイク便でやりとりしながらチェックしていたので、時間がかかりました。デジタル画像ならデータをコピーして送れば、平行してチェックできます。効率的だし、何より貸出先でオリジナルのフィルムを紛失したという事故も防げます。

――表現内容という点ではどうでしょう?

山岸氏:デジタルになって、RAW画像を現像する際に好みの味付けをしたり、撮影後に画像をレタッチしやすくなって、フィルムの頃より自分でコントロールできる範囲が広がりました。このこと自体はいいことなんですけど、じゃあ実際に全部自分でコントロールしようとすると、とてもじゃないけど時間が足りない。プロとして限られた時間内に撮影して作品を仕上げる以上、どこかで線引きしながら、上手くつきあう必要があると思ってます。

――逆にデジタルで不便になった点はありますか?

山岸氏:基本的には便利になったことの方が多いと思います。ただ、データをコピーしやすい点は心配ですね。オリジナルのデータは信頼できる相手にだけ送るようにしないと、どこからネットに流出するかわからない。あと、保存したデータはいつでも読み出せるよう、ときどき保存メディアを更新する作業が必要ですね。実は今、10年以上前に米米クラブの写真集用に作ったデジタルデータが読み出せなくて困ってます。当時印刷会社に入ったばかりの業務用のコンピューターでCG処理をした画像データなんですけど、データを保存したメディアが5インチのMOなんです。数年前に思い出した時には読み出せるドライブがとっくになくて、データ変換サービスに出したりしたものの、どこもお手上げでした。当時から、いつかはデジタル写真全盛の時代が来るとは思っていましたけど、保存したデータが読み出せなくなるほど進化のスピードが速いとは思っていませんでした。これには本当に困ってます。

10年以上前にCG加工した作品を保存した640MBの5インチMO。フォーマットが特殊で、データ変換専門の業者でも読み出せなかった。デジタルデータの思わぬ弱点を痛感