電車内でiPodを楽しんでいる風景は珍しいものではなくなった。最早生活の一部と化したといってもいい。iPod登場によってミュージックライフはどのように変化したのか、また、今後iPodに何を期待するのかを音楽制作現場に詳しく、自身もアーティストであるサエキけんぞう氏に聞いた。(聞き手:涌井 健一朗、写真:中島 正之)


──iPodの登場により、音楽を制作する立場として変化はありましたか。

サエキ氏:時代が楽曲中心主義に戻ってきているところがありますね。iPodやiTunesのシャッフル再生機能で1曲1曲をバラバラに聴くようになったので、“1曲の出来”が問題になってきたと思います。CDアルバムを普通に曲順通りに聴くことは少なくなりました。

――近年ベストアルバムが多いのは、楽曲中心主義を広めたiPodの影響でしょうか。

サエキ氏:実はiPod人気が本格的になる前に、売れ筋の曲を集めた「NOW」とかのコンピレーションCDが売れた時期があったんですよ。だから既にそういった予兆があるにはあった。曲がデータ化するというか、情報化する時代になってきているんですね。アルバム単位ではなく、1曲単位で良いのか悪いのかを判断する。つまりアーティストベースでCDを聴くというよりは、さまざまな曲が世の中にはあふれていて、そこから1曲をチョイスしていく時代になってきたと。

 例えばロックの場合、ビートルズとローリング・ストーンズしか聴かないけど、たまにはU2も聴いてみようとか、ブラックコンテンポラリーで何がはやっているのか分からないから、NOWに入っている「ディスティニーズ・チャイルド」を聴くとか、広く世の中を見回して良い曲を聴きたいと思うようになってきた。逆に言うとそういうものに頼らないと見付けられないし、リサーチのしようがなかった。それがiPodに至る橋渡しの状況じゃなかったのかと思います。iPodでさらにそれが加速するというか、より広いところからチョイスして聴けるようになったということですよね。

──iPodが世の中に登場してきて、業界的に一番驚いたことはなんでしょう。

サエキ氏:以前は、アーティストの作り出したアルバムをそのままの曲順で聴いていた。その後、NOWなどのコンピレーションアルバムレベルで曲をつないで聴くようになりました。今では、iPodのシャッフル再生により、アーティスト側が予想もしない曲順で聴かれるようになったんです。以前から僕らが面白がってやっていたんですが、一般の人がやるようになったので、驚きでしたね。

──つながりかたの面白さとは。

サエキ氏:クラシックの後にブラックコンテンポラリーが流れるとかね。面白いんです。ブラコンの人はブラコンしか聴かない、パンクの人はパンクしか聴かないというように、ジャンルが硬直化している状況だったんです。でも実はパンクの人もアイドルの曲を聴きたかったりするんですよ(笑)。CDだとそれがやりにくい。でも、iTunesの同じリスト内にそれらが並んでいると自然と聴いてしまう。楽曲中心主義だから、ジャンルを超えるということを何とも思わない。そういうシーンをiTunesやiPodは作り出したんじゃないかな。

──楽曲中心主義となったことにより、いわゆる売れ筋の曲が常に求められるわけですが、音楽制作側全体のレベルは上がっているんでしょうか。

サエキ氏:今のアーティストってシングルチューンに敏感で、本当の売れ線の曲を作れる枠組みを持った人が多いんです。プロデューサー的な嗅覚(きゅうかく)とか、能力で、若手のアーティストがシングル曲を作るようになってきてますよ。

──シャッフル再生機能により、制作者の意図とは違った聴きかたが広がりましたが、業界の人はiPodの登場を良しと考えているのでしょうか。

サエキ氏:単純に曲を聴くチャンスが増えているのは良いことだと思います。メディア業界っていうのは、生活の中での時間の奪い合いだと思うんですよ。生活の中でより音楽に親しむチャンスが増えているわけですから、iPodは音楽業界に貢献していると思いますよ。

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