今回ご紹介する動画は「10番の夜」。サッカー史上最高の選手のひとり、ディエゴ・マラドーナが司会を務めるバラエティー番組です。

 引退以来、美食と酒池肉林の生活に明け暮れていたマラドーナ、その体は毎年ふくれ上がり、見るも無惨な肥満体(120キロ超)となりました。身長167センチで120キロというのは曙・小錦を上回るインパクトですが、体への負担は相当なもの。そのため04年には心臓に問題を起こし、危篤状態に陥りました。世界中の誰もが「もうダメだ」と思ったのですが、奇跡の男マラドーナ。何とか地獄の淵からはい上がります。しかしこのままの体型では危険と指摘されて一念発起、ダイエットに取り組みますが、そこは世界のマラドーナ、中途半端は許しません。胃の3分の2を切り取るという奇想天外な方法で見事30キロ近くの減量に成功します。すっかり元気になったマラドーナは、早速世界を飛び回り、ロナウドにいちゃもんをつけ、ロナウジーニョにリフティングの極意を教え、挙げ句、レアル・マドリーの練習に行った折には「オレに監督をやらせろ!」とのたまうまで元気になりました。それでもエネルギーのあり余る彼は、何とアルゼンチンでテレビ番組を持つことになります。

 その名も「10番の夜」。これまでメディアの前でもお構いなしの暴言を吐いてきたマラドーナをメインホストに起用するアルゼンチンテレビ局の勇気に脱帽します。番組はマラドーナが毎回豪華ゲストを呼んでトーク(おもにぶっちゃけ)、歌、ゲームに興じるというやや古くさい内容ですが、ゲストがホントに豪華! 第1回はなんと神様ペレ。これには驚きました。

自らの威光にものを言わせて次々と超大物を呼びつけるマラドーナの冠番組「10番の夜」。第6回のゲストは、「宇宙人」ジヌディーヌ・ジダン
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 さて、その第6回ですが、元アルゼンチン代表GKのゴイコチェアの軽妙なMC(スポーツ選手と思えないほどテレビ慣れしてます)から始まり、番組に遅れてしまったマラドーナがヘリコプターで駆けつける、というすごいオープニングです。ヘリコプターを降りると美女が運転するサイドカーに乗ってスタジオに登場という、過剰を通り越したゴージャスな演出。

 ド派手なオープニングの後にゲストのジダンが衛星回線で登場。メディアのインタビューにめったに答えることのないジダンを出演させてしまうマラドーナの威光、さすがです。ジダンと言えば、先日終わったワールドカップで「頭突き」で現役引退を飾りました。頭突きで引退とはプロレスラーみたいです。

 さて、そのジダンがマラドーナの番組にゲストで出演するとくれば、当然そこは誰をも怖れないマラドーナの直球すぎるほどの質問で今回の一件を問い正してくれる、と期待しておりましたが、番組はワールドカップの数カ月前の収録であったため、頭突きの件は残念ながら話題に上りませんでした。

 肩すかしをくらったところで、当たりお障りのない会話が続き、話はジダンの息子エンツォの名前の由来に移りました。ジダンのアイドル、元ウルグアイ代表、エンツォ・フランチェスコリから名前をとったのだと言うジダンに、マラドーナはご不満(なぜって? 自分の名前をつけなかったから)のようで、この話題の後、強引に会話をまとめインタビューを終了してしまいました。すごいです。世界の中心にマラドーナがいます。

 さて、この後も番組はベタベタな展開で進んでいきます。遠く離れたところに住むマラドーナの弟(ウーゴ)からの手紙が読み上げられ、その内容に号泣するマラドーナ。ふと振り返ればそこには弟が! 兄と弟はがっしりと熱い抱擁を交わし涙します。桂小金治の「それは秘密です」もびっくりの展開にも会場はスタンディングオベーション。みなさん温かいですね。

 ひと息ついたところで今度は他のゲストとのトークと歌とゲーム。そしてチェス駒の着ぐるみを着た人間チェスで目隠しをしたチェス名人とマラドーナがチェス勝負。そのあとは涙の再会を果たしたマラドーナが弟とチームを組んでテニスサッカーで真剣勝負。それが終わったところでようやくフィナーレ。90分(サッカーと同じ)のスーパーバラエティーはこうして幕を閉じるのです。見終わった後はもうお腹いっぱい。

 豪華ゲストに歌、ダンス、ゲームにトークと何でもありの内容と過剰なまでの演出。まるでバーリトゥードとWWFの融合ともいうべきスーパーバラエティーは、この番組でしかお目に掛かることはできません。今回のゲストはジダンでしたが、ほかにメッシ、クレスポ、リケルメといったサッカー界のスターたち、ほかアルゼンチンのスポーツ界、エンターテイメント界から本当にすごい人たちが出演しています。しかも出演した人たちがみんなうれしそう。アルゼンチン人は本当にマラドーナが好きなんですね。

 この週末は、マラドーナが贈る、何でもありのスーパーバラエティーで楽しくお過ごしください。

筆者紹介 石井アキラ
いしい・あきら●ブレイン・ワークス所属。本業は編集者。紙媒体やレコードを愛するバリバリのアナロガーだが、映像・音楽・スポーツといったエンターテイメント全般、著作権に関し造詣が深く、それを活かしたライター活動も行っている。デジタル世界でのエンターテイメントの未来、が今後追っていきたいテーマ。