数年で買い換えとなるパソコンと違って、パソコンを置く机、自分が座る椅子は、何年も、場合によっては何十年も使えるモノ。それだけにじっくりと時間をかけて、自分に合った製品を選びたい。多少値段は張っても、それだけの価値がある一生モノの椅子や机を探していく連載、始めます。
パソコンチェアは10万円以上のものを買え・・・何を馬鹿な、と思われるかもしれませんが、これ、ホントです。私、この10数年にわたって、身近な人にこんなことをずっと言い続けてきました。もっとも、最初はあきれられていましたけれど。
なんでこんなことを言い始めたか。きっかけは、某家庭誌で、高級ブランドの「インテリアカタログ」を作ったことでした。バブル真っ盛りのころです。
それまで、パソコン用の椅子なんて座れればいいや、くらいに考えていたのですが、世界の著名デザイナーが手がける椅子の数々を見て、クラッときちゃいました。だって、単なるオフィス用の椅子が、めちゃくちゃにカッコいいんですよ。
見慣れたオフィスチェアとどこがどう違うのかと問われても、うまく説明できないのですが、布地の色や材質があか抜けているのはもちろん、座面や背もたれのかたちや角度、車輪(キャスター)のついたベース部分の形状、座面の取り付け位置など、全体のバランスがいいのです。だから、小学校の教室にある椅子のような、一歩間違えば実用一点張りのデザインの椅子でも、野暮ったくならないんですね。
まあ、肝心なのは座り心地が悪かったら、ただ「カッコいいよね」だけで終わっていたかもしれません。ところがです。単なる積層合板を貼っただけのものでも、座ってみると、普通のオフィスチェアと微妙に違うんです。お尻と背中から、「これ、具合がいいかも」という信号が伝わってくるのです。
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幸いなことに、カタログを作成した直後にバブル崩壊で、とんでもない値段が、手の届く程度まで下がってきました。で、試しに思い切って買ってみることにしました。
いくつか候補にあげた中から選んだのは、デンマークのフリッツハンセンというメーカーのオフィスチェア。積層合板を曲げて座面を作り、そこに薄いクッションを貼り付けただけという、古くさい手法で作られたものです。リクライニング機構はついていますが、人間工学なんていう言葉はどこにもありません。確か、17万円くらいしました。
椅子が届いた日。箱をあけてみて、ちょっと不安になりました。確かにスタイルは抜群なんですが、さすがに17万円の椅子という雰囲気に欠けます。暗いショップで見たときは気づかなかったのですが、蛍光灯の下で見ると、ちょっと素っ気なさすぎるような気がする。「失敗したかな」と思いました。
ところが、1カ月、半年と使い続けるうちに、その実力がだんだんわかってきました。当時、腰痛に悩まされていて、長時間にわたってパソコンの前に座るのはけっこう苦痛だったのですが、それを意識しなくなったのです。
気がついたら、パソコンを使うときもテレビを見るときも、ずっと椅子の上。傾き過ぎているんじゃないか、と思った背もたれも、仕事中に疲れて伸びをするときに、いい具合にしなって、心地いいのです。パソコンチェアは、たとえ値段が高くても、じっくりと時間をかけて、いいものを選ぶべきだと、あらためて感じました。
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▲ 17万円で買ったフリッツハンセンのオフィスチェア。もう手放せません |
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そりゃ、斬新なスタイルの椅子ならば、他にもあるでしょう。機能に優れただけの椅子ならば、業務用の中から探せば、数万円で見つかるかもしれません。しかし、スタイルも機能も、と欲張ると、やっぱり10万円を超えてしまう。
やっぱりそんなに出せない? しかしですよ。いったん「これだ」というパソコンチェアに出会えれば、ずっと使いたくなるものです。パソコン等のデジタル機器が賞味期限の短い「生もの」だとすれば、名品チェアはずっと味わえる「高級干物」のようなもの。かめばかむほど味が出てきます。何よりも所有する喜びがある。オマケで蘊蓄も語れますしね。使い捨てをやめていいものを長く使うという姿勢は、今という時代にも合っています。
この事情は、椅子だけではなく、机や照明についても同じことが言えます。世界のファッションブランドが、今や日本市場を無視できなくなってきたのと似ていますが、インテリアの世界でも、日本市場を無視できない。だから、世界の著名デザイナーが手がけた名品が、よりどりみどりの状態になっているのです。この機会を見逃したら損です。
このコラムでは、デザインもよくて機能も十分、一生使いたくなる椅子や照明、デスクなどを紹介していこうと思います。名品探訪に、しばしおつきあいください。
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| ▲ 最初に足を運んだのは、輸入家電の聖地、秋葉原のヤマギワリビナ本館です |
| 筆者紹介 関戸 俊章(せきど・としあき) |
| 小学館の女性誌統合サイト「FAnet」と生活支援系サイト「Muffin-Net」の運営に携わるほか、日経ベストPC「モノ見遊山」を担当。無類の道具好き。特に、大工道具やキッチン雑貨などの手道具に目がない。電化製品では洗濯機や冷蔵庫など白物家電(生活家電)が好き。気に入ったものはしばしば購入して自分でも使っている。原稿書きがいやになったときの気分転換は料理。 |













