「液晶テレビの音質チェックをお願いします」

 日経ベストPC+デジタルのW記者からそう言われて、私はいまひとつピンと来なかった。音質でテレビを選ぶ。そんなテレビの買い方がこの世の中にあり得るのか?

 テレビにとってスピーカーやアンプなんかオマケに過ぎない。テレビで語られるべき性能の中心は画質なのである。仮に音がダメだとしても、AVアンプにつないで、それなりのスピーカーで聴けば良いのだ。テレビを音という軸でもって評価するのは、クルマを純正カーオーディオで評価するようなものだ。意味がないとは言わないが、別にそれがダメでもいいじゃないか。

 だが私はテレビを自分で選んで買った経験がない。家にテレビがないわけではないが、それは仕事の必要から仕方なく買ったものであって、しかもそれを20年近く使い続けている。だからいまテレビの購入を検討している人たちが、どのような軸で評価し、選択しているのか、私にはなにも理解できない。ああ、まったく分からないぞ、どうしよう。


聴いてビックリ! テレビの音には大差が

 まあ、とりあえず聴いてみましょうか。ということで編集部に行ってみると最新の液晶テレビがどーんと並んでいた。全部32型でハイビジョンサイズ。恥を忍んで書くが、どれも薄いので驚いた。そもそもハイビジョン放送など大昔にNHKのスタジオで見たのが最後で、電波に乗った番組を見るのはこれが初めて。本当にハイビジョンは実用化されていたのだ!

 最新テクノロジーを目の当たりにした興奮と感動の体験は大幅に省略し、ざっと全機種聴いてみて分かったことがある。確かに音に違いはある。いや、あるなどという程度ではない。一般的なオーディオ機器として考えると、それはあり得ないほど大きな差だ。

 ああ、なるほど。だからテストの必要もあるのかと、やっと編集部側の意図を理解した次第なのだ。だってテレビの音質なんか店頭ではチェックのしようがない。画質は個別に見ることもできるが、量販店の売り場には様々な音が溢れていて、特定の機種のみ音を聴き分けるなどということは不可能だ。


液晶テレビは「かぶり付き」で見るものだった

 まず大きく異なるのは「音質」ではなく「音場」だった。どのモデルも液晶画面下部にスピーカーを1ペア内蔵していて、ステレオ再生が可能だ。聴いてみて驚いたのは、どの機種もステレオ音像を結ぶ定位位置が画面直前だったことだ。距離にして1.5m前後。これはあまりに近すぎる。

 液晶テレビに詳しい先のW記者に「これっておかしくない?」と質問したところ「ならばむしろ正しい」という答えが返ってきた。横長の液晶テレビは「画面の縦の長さ×3」というのが最適な視聴ポジションらしく、その距離で観ると画面が視野を覆い尽くし、最強の臨場感を得られて良いのだそうだ。時代は変わった。

 「テレビは離れて見なさい」と言われて育ったブラウン管世代としては、身の危険を感じる至近距離なわけだが、いまや画面にかじりついて観てもいいことになっているらしい。そして音に関してもそのポジションに最適化されているようだ。


座布団一枚の面積に家族全員は座れない

 そのポジションの面積が機種によってずいぶん違うのだ。画面直前ならすごい音で鳴っているのに、ちょっと離れた途端にしょぼい音になることもしばしば。視野角の広い液晶がウリなのに、斜めから見るとオーディオ的にはアウトだったりもする。

 仮に画面直前の1.5m、座布団一枚分くらいの面積が液晶テレビの特等席だとしよう。だが、そこに家族全員が集結するわけにはいかない。でも、少しくらい離れた位置でも、ある程度の音で鳴ってくれたら皆で楽しく見られるし、それはテレビの設置場所の自由度にもつながる。だからいい音が得られるポジションは広いほうがいい。

 ただ一般的に言うなら、どこで聴いてもそれなりの音がするものは、定位の得られる位置でもそれなりの音しかしない。だから最強の“おひとりさま”向け臨場感を得たいのか、皆でわいわい楽しく見たいのか、どっちを取るのかということになる。

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