このコラムでは、オーディオ&ビジュアルにまつわる興味深い情報を、タイムリーかつスピーディーに提供したいと考えている。そして、その機器や技術などにかかわっている人間のスピリチュアルな部分、エモーショナルな思いを内容に反映したいと思っている。(小原由夫)
![]() |
| ▲ 東芝が2006年3月31日に発売したHD DVDプレーヤー「HD-XA1」 |
その発表・発売は唐突だった。3月30日午後、マスコミ各社に急告が伝達され、翌3月31日午後、東京・六本木のホールにて発表会という段取りで行われた。
「お待たせしました。弊社は本日より、HD DVDプレーヤーの出荷販売を開始します」──東芝執行役上席常務・藤井美英氏の高らかな第一声であった。
当初、米国市場にて3月中に発売されるのではないかとまことしやかにささやかれていた東芝のHD DVDプレーヤー。参画するハードメーカーや、サポートするハリウッド映画会社の数からして、圧倒的優位と見られているBlu-ray Disc(以下BD)陣営に、少しでも先んじて優勢に立とうという強い意欲がその背景にうかがい知れる。しかし、待てど、暮らせど、正式なアナウンスは聞こえてこなかった。周囲が気を揉む最中の3月下旬、米国発売が4月中旬以降にずれ込むとの報道がなされた。
だが、いざふたを開けてみれば、お膝元の日本で先行発売という不意打ち的発表。しかも、2枚の専用ソフトをバンドルするという大盤振舞いである。3月下旬にリリース予定だったソフト数タイトルは、4月下旬に発売が延期となっていた。ハードを発売しても、1カ月ほど専用ソフトがないという状況を避けたかったのだろう。
折しも、BDの命運を握ると目されている「プレイステーション3」が、今春の発売予定としていた当初の計画を、2006年11月以降と半年以上も延期した。その理由として、著作権保護技術の策定が遅れたためとしているが、これに連動して家電メーカーからの発売スケジュールも遅れることが予測された。
そうしたニュースをおそらく東芝は多角的に検討し、HD DVDのタイムテーブルにとって“プラス要因”と分析。「発売のタイミングはいましかない!」と判断し、前倒しで日本発売を決めたのではないだろうか。
HD DVDがこうして発売になり、ソニー、松下電器産業、シャープからは既にBD方式レコーダーが発売されている。そのことから考えても、市場には2つの規格が併存し、次世代DVDの座を巡って争うことは必至となった。かつて世界の家電・AV市場を巻き込んだ「VHS対ベータ」のビデオデッキ戦争と同様、“消費者不在の争い”がまた繰り返される可能性が高まったわけだ。
全く互換性のないこの2つの次世代DVD規格。一時は規格統一に向けて両陣営が歩み寄り、めでたしめでたしのハッピーエンドを迎えるはずだった。それが土壇場で、双方の思惑の微妙なズレによって、まさしく成立目前で破談してしまったのである。
「新・三種の神器」と称され、あれほど勢いのあったHDD&DVDレコーダーは、現在、意気消沈している。消費者も馬鹿ではない。次世代DVDの動向を見極めようとしているのだ。
冒頭で記したHD DVD発表会の席上、壇上に立った東芝の藤井氏は「極端に言えば、もう赤色(現行DVD)はいらない」とまで言及した。つまり、これからは青色レーザー(次世代DVD)がその座を担っていくということである。今日までHDD&DVDレコーダー市場をけん引してきた東芝の責任者が発したこの発言を、HDD&DVDレコーダーの開発者やエンジニアたちはどう聞いたのだろうか。果たして苦虫を噛む様相で悔しがったのか、あるいは新たなるチャレンジとして自らを鼓舞したのか……。
新たに始まった本連載では、しばらくはこのHD DVD対BDの草創期から今日に至るまでの経緯を再確認したい。さらにはその将来性に関してまで、客観的事実を元にしながら、筆者の推測も交えつつ、週替わりで報告したいと思っている。
| 筆者紹介 小原
由夫 おばら・よしお オーディオ&ビジュアル評論家。理工系大学卒業後、測定器エンジニア、AV専門誌の編集者を経て現在に至る。ハードからソフトまでの幅広い知識とそれに基づく評論、解説が支持を得ている。現在「nikkeibp.jp セカンドステージ」にて、「DVD 見方・聴き方・楽しみ方」や「AV評論家のマイホーム建築顛末記/インターネットで建築家と出会った! 家を建てた!」を好評連載中。 |

















